用語集

本書で使う主要な記号と用語をまとめる。詳しい説明は各章を参照。

記号

記号 読み・意味 初出
\(H\) 磁場 第1章
\(M\) 磁化(単位は μB/Co, emu/g, emu/cm³ など。必ず単位を確認する 第1章
\(M_s\) 飽和磁化 第1章
\(\chi\) 磁化率(\(\chi = M/H\) 第2章
\(\chi_0\) 温度に依存しない磁化率成分 第9章
\(T_{\mathrm C}\) Curie 温度(強磁性が消える温度) 第1章
\(H_c\) 保磁力(磁化をゼロに戻すのに要する逆向き磁場) 第1章
\(x\) 組成の変数。系列ごとに指すものが違う(Co 量か、Al・Tl 量か) 第5章
\(a\) 立方晶の格子定数 第5章
\(S\) スピン量子数 第4章
\(g\) g 因子 第4章
\(C\) Curie 定数 第4章
\(\theta_p\) Weiss 温度(負なら弱い反強磁性相関) 第5章
\(p_{\mathrm{eff}}\) 有効ボーア磁子数。イオン1個あたりの磁気モーメントの物差し(3 前後) 第4章
\(\mu_{\mathrm B}\) ボーア磁子(\(9.274\times10^{-21}\) emu) 第1章
\(\mu_{\mathrm{eff}}\) 束縛磁気ポーラロン1個の実効モーメント(\(10^1\)\(10^4\) μB) 第9章
\(\Delta_{\mathrm{cf}}\) 結晶場分裂幅(\(t_{2g}\)\(e_g\) のエネルギー差) 第4章
\(R_{wp}\) リートベルト解析の信頼度因子 第5章
\(R^2\) 決定係数 第10章
RMSE 二乗平均平方根誤差 第10章

混ぜてはいけない二組

  • \(p_{\mathrm{eff}}\)\(\mu_{\mathrm{eff}}\) は名前が似ているが、前者はイオン1個(3 前後)、後者はポーラロン1個(最大 \(3\times10^4\))で、桁がまるで違う。
  • スピン量子数の \(S\) と、リートベルト解析の適合度 \(S\) も別物である。本書では後者を必ず「適合度」と呼ぶ。

用語

In₂O₃(酸化インジウム)
透明で電気を通す酸化物。スズを加えた ITO は液晶画面の透明電極として使われる。本書の舞台。
bixbyite(ビックスバイト)構造
In₂O₃ がとる立方晶の構造(空間群 \(Ia\bar3\))。陽イオンの席が 24d8b の二種類ある。
24d サイト / 8b サイト
bixbyite の二つの陽イオン席。24d は非中心対称で歪んでおり、金属–酸素距離が3種類ある。8b は中心対称で6本が等しい。単位胞あたりの個数比は 3 : 1。
DMS(希薄磁性半導体)
半導体に磁性元素をわずかに加えた材料。電荷とスピンの二つの自由度を同時に使うことをねらう。
RTF(室温強磁性)
室温で強磁性を示すこと。本書が追いかける現象。
結晶場
周囲の酸素がつくる静電的環境。d 軌道を \(t_{2g}\)(下 3 本)と \(e_g\)(上 2 本)に分裂させる。
Hund 結合
同じ向きのスピンをできるだけ多く揃えようとする力。結晶場分裂と綱引きをする。
スピン状態(LS / IS / HS)
低スピン・中間スピン・高スピン。Co³⁺(d⁶)では LS(\(S=0\)、非磁性)、IS(\(S=1\))、HS(\(S=2\))の三通り。Co²⁺(d⁷)は酸化物中でふつう HS(\(S=3/2\))。
酸素空孔 \(V_O\)
結晶から酸素が1つ抜けた欠陥。単なる「抜け」ではなく、電子を収容する新しい状態をつくる。
ドナー電子 / ドナーバンド
酸素空孔などが供給する電子と、それが重なってできる帯。磁性を媒介する候補の一つ。
束縛磁気ポーラロン(BMP)
欠陥に捕まった1個の電子が、周囲の多数の磁性イオンのスピンを揃えてつくる大きな磁気の塊。塊どうしが重なると長距離の強磁性になりうる。
F 中心交換
酸素空孔に捕まった電子を介した交換相互作用。
パーコレーション(浸透)しきい値
不純物がつながって系全体に道をつくるのに必要な最小濃度。これを下回ると、不純物どうしの直接の相互作用だけでは長距離秩序はできない。
リートベルト解析
粉末 X 線回折のパターン全体を構造モデルで再現し、格子定数やサイト占有を決める手法。
XPS(X 線光電子分光)
内殻電子の束縛エネルギーから元素の価数を調べる測定。
記述子
機械学習で予測の入力に使う量。本書ではイオン半径とイオン化ポテンシャル。
リッジ回帰
係数の大きさに罰則を加えた線形回帰。データ点が少ないときに使われる。

模型と事実の区別

ドナーバンド、束縛磁気ポーラロン、F 中心交換は、いずれも現時点で結果を説明しうる模型であって、確定した機構ではない。本書はこれらを「原因である」とは書かない。