flowchart TB
C["理想立方 ABO₃<br>箱は立方体(一辺 a)<br>基底は5原子"] --> A["A サイト:La<br>(0,0,0)=箱の角"]
C --> B["B サイト:Co<br>(½,½,½)=箱の中心(体心)"]
C --> O["O サイト:酸素 ×3<br>(½,½,0),(½,0,½),(0,½,½)<br>=箱の面の中心(面心)"]
8 理想ペロブスカイト ABO₃ と八面体
五つの原子でできた「おもちゃの結晶」は、Co の電子に何を語りかけるのか。
そして、なぜ本物の LaCoO₃ に進む前に、わざわざこのおもちゃを挟むのか。
この章のゴール:理想立方ペロブスカイト ABO₃ の5原子セルを分率座標で作り、CoO₆ 八面体の局所構造量(Co–O 距離・O–Co–O 角)を測れること、そしてその八面体が結晶場を通じて Co の電子状態を決める「舞台」になることを、自分の言葉で説明できるようになる。
ここまで、題材は一種類の金属 Co だった。原子は一種、基底はせいぜい2個。第3章では、その単純さのおかげで格子ベクトルも分率座標も裸で見えた。本章から題材は酸化物へ移る。Co のまわりに酸素が組み上がり、原子の顔ぶれが一気に増える。
増えた先に、本書の主役のひとつ LaCoO₃ が待っている。だが本物の LaCoO₃ は、箱の取り方しだいで原子が十個や三十個と詰まり(菱面体原始胞なら10原子、六方軸の慣用胞なら30原子。第8章で扱う)、構造の名前には R-3c という見慣れない空間群記号が付く。第3章までに手にした道具――格子ベクトルと分率座標――だけで、いきなりそこへ踏み込むのは骨が折れる。原子数の多さと記号の物々しさに、せっかくの道具が埋もれてしまう。
そこで、本物へ進む前に5原子だけのおもちゃを一つ挟む。理想立方ペロブスカイトと呼ばれる、いちばん対称性の高い ABO₃ である。原子はたった5個、箱は立方体、座標はすべて \(0\)・\(\tfrac12\)・\(1\) の単純な数で書ける。このおもちゃの上で、Co を酸素が囲む八面体を組み立て、Co–O 距離や O–Co–O 角といった「局所の物差し」を測る練習をしておく。そうしておけば、第8章で本物の LaCoO₃ に出会ったとき、その複雑さを「このおもちゃからのずれ」として読めるようになる。
1 理想立方ペロブスカイト ABO₃ の5原子
ペロブスカイトは、三種類の元素 A・B・O が \(1:1:3\) の比で並ぶ構造の総称である。本書では A をランタン La、B をコバルト Co、O を酸素にとる。化学式はそのまま LaCoO₃ だ。
いちばん対称性の高い理想形は、箱が立方体(一辺 \(a\))で、5原子が次の分率座標に座る。
\[ \begin{aligned} \text{La} &: (0,0,0) \\ \text{Co} &: (\tfrac12,\tfrac12,\tfrac12) \\ \text{O} &: (\tfrac12,\tfrac12,0),\ (\tfrac12,0,\tfrac12),\ (0,\tfrac12,\tfrac12) \end{aligned} \]
第2章で約束したとおり、これらは分率座標、つまり「箱の各辺を何割すすんだか」の比である。La は箱の角、Co は箱のど真ん中(体心)、酸素3個はそれぞれ箱の面の中心(面心)に乗っている。代表の座標が \(0\) と \(\tfrac12\) だけでできているのが、このおもちゃの見通しのよさだ。
ここで、第2章の「角や面に乗った原子は複数の箱で分け合う」という数え方を思い出すと、原子数が合うことを確かめられる。角の La は8つの箱で分け合うので \(1/8 \times 8 = 1\) 個分、面心の酸素は2つの箱で分け合うので \(1/2 \times 6 = 3\) 個分、体心の Co は分け合わず1個。合わせて La\(_1\)Co\(_1\)O\(_3\)、たしかに化学式 LaCoO₃ の比になる。座標を5行書くだけで、組成比までが手元で閉じる。
よくある混同
「5原子セル」と言うとき、箱の中に見える原子の数(角・面・体心を全部数えると \(8+6+1=15\) 個に見える)と、分け合いを差し引いた1つの箱に属する原子数(5個)を取り違えやすい。基底として数えるのは後者、\(0\le x,y,z<1\) の代表だけである。第2章の数え方が、ここでそのまま効く。
2 A サイト・B サイト・O サイト ― 役割で見る
三つのサイトは、ただ場所が違うだけではない。役割が違う。
- B サイト(Co) ― 本章の主役。酸素にぴたりと囲まれ、後で見る八面体の中心になる。Co の 3d 電子が、まわりの酸素から受ける電場で並び替えられる――この章の着地点はここだ。
- O サイト(酸素) ― Co を囲む籠を組む。酸素の位置がほんの少し動くだけで、Co が感じる電場が変わる。第8章の八面体回転は、この酸素が「波打って」動く話になる。
- A サイト(La) ― 八面体と八面体のあいだの隙間を埋める「詰め物」。籠の骨組みそのものより一歩引いた役回りで、本章では脇役にとどめる。
主役は B サイトの Co と、それを囲む O である。次節で、この二つが作る籠――八面体――を組み立てる。
3 CoO₆ 八面体 ― Co を囲む六つの酸素
体心の Co \((\tfrac12,\tfrac12,\tfrac12)\) から見て、いちばん近い酸素はどこにいるか。面心の酸素3個 \((\tfrac12,\tfrac12,0),(\tfrac12,0,\tfrac12),(0,\tfrac12,\tfrac12)\) に加えて、隣の箱から回ってくるコピーがある。第2章の modulo 1 で読めば、\((\tfrac12,\tfrac12,0)\) の隣には \((\tfrac12,\tfrac12,1)\) がいる。同じように \((\tfrac12,0,\tfrac12)\) には \((\tfrac12,1,\tfrac12)\) が、\((0,\tfrac12,\tfrac12)\) には \((1,\tfrac12,\tfrac12)\) が対をなす。
結局、Co のまわりには酸素がちょうど6個そろう。Co を中心に、\(x\) 方向の前後、\(y\) 方向の前後、\(z\) 方向の前後――三つの軸それぞれの両側に1個ずつだ。この六つの酸素が作る立体が八面体(octahedron)であり、Co を中心にもつことから CoO₆ 八面体と呼ぶ。その立体像を 図 3 に示す。ペロブスカイトの骨組みは、この八面体が頂点の酸素を共有しながら三次元に連なってできている。
flowchart TB
Co["中心:Co (½,½,½)"]
Co --> X1["+x 側 O (1,½,½)"]
Co --> X2["−x 側 O (0,½,½)"]
Co --> Y1["+y 側 O (½,1,½)"]
Co --> Y2["−y 側 O (½,0,½)"]
Co --> Z1["+z 側 O (½,½,1)"]
Co --> Z2["−z 側 O (½,½,0)"]
4 局所構造量を測る ― Co–O 距離と O–Co–O 角
八面体ができたら、その形を数で押さえたい。構造を物理へ翻訳するには、まず「局所の物差し」が要る。二つだけ測れば足りる。
Co–O 距離。 体心 Co \((\tfrac12,\tfrac12,\tfrac12)\) と、たとえば \(z\) 方向下側の酸素 \((\tfrac12,\tfrac12,0)\) の隔たりは、\(z\) 座標が \(\tfrac12\) だけ違うだけだから、実距離で \[ d_{\text{Co–O}} = \tfrac12\,a = \frac{a}{2}. \] 六つの酸素はどれも軸方向に \(\tfrac12\) だけ離れているので、Co–O 距離は6本すべて等しく \(a/2\) になる。理想八面体は、六本の結合長がそろっているのが定義だ。
O–Co–O 角。 Co をはさんで二つの酸素を見たとき、その開き角を考える。同じ軸の両側にある酸素(たとえば \(z\) の上と下)どうしは Co を貫いて一直線に並ぶので、開き角は \(180°\)。違う軸にある酸素(たとえば \(z\) 上と \(x\) 上)どうしは直交する辺の上にあるので、開き角は \(90°\)。理想立方ペロブスカイトでは、O–Co–O 角は \(90°\) か \(180°\) のどちらかにきれいに分かれる。これも、ゆがみのない理想八面体であることのしるしである。
数の感覚もつけておこう。実物質 LaCoO₃ の擬立方格子は、おおよそ \(a\approx 3.8\ \text{Å}\) である(これは精密値ではなくオーダーの代表値として扱う。正確な格子定数は別途確認のうえ用いる)。すると Co–O 距離は \[ d_{\text{Co–O}} \approx \frac{3.8}{2}\ \text{Å} \approx 1.9\ \text{Å} \] と見積もれる。これも代表値・オーダーとして読む値だが、遷移金属と酸素の結合長がおよそ \(2\ \text{Å}\) 前後だという常識的な大きさと突き合わせると、桁として無理のない値になっている。理想立方というおもちゃの上でも、こうしてオーダーの数字までは手元で出せる。
数値の読み方
ここで使った \(a\approx 3.8\ \text{Å}\)、\(d_{\text{Co–O}}\approx 1.9\ \text{Å}\) は、いずれも「だいたいこのくらい」という代表値・オーダーである。実物質では結合長が6本でわずかにずれることもあり、精密な議論には測定値が要る。本書はこの段階では桁の感覚を持つにとどめ、精密値はおもちゃのスコープの外に置く。
小課題 7.1
上の5原子の分率座標を方眼紙に立方体として描き(角に La、中心に Co、各面の中心に O)、体心の Co から最も近い酸素を6個すべて挙げよ。そのうち何個が同じ箱の中にあり、何個が隣の箱から回ってくるコピーか。続けて、6本の Co–O 距離がすべて \(a/2\) で等しいことを、座標の差から確かめよ。
解答例
同じ箱の中にある酸素は面心の3個 \((\tfrac12,\tfrac12,0),(\tfrac12,0,\tfrac12),(0,\tfrac12,\tfrac12)\)、隣の箱から回ってくるコピーは \((\tfrac12,\tfrac12,1),(\tfrac12,1,\tfrac12),(1,\tfrac12,\tfrac12)\) の3個。合わせて6個で八面体をなす。距離はいずれも、Co \((\tfrac12,\tfrac12,\tfrac12)\) と各酸素で座標の差が一つの軸方向に \(\pm\tfrac12\)、残り二軸は \(0\) だから、実距離は \(\tfrac12 a = a/2\)。6本すべて等しい。これで、おもちゃの八面体が「ゆがみのない理想形」であることが、座標から直に確かめられた。
5 結晶の軸と八面体の軸 ― global と local を分ける
ここで、結晶場の話に入る前に小さな整理をしておく。本章にはじつは二種類の「軸」が顔を出している。
ひとつは結晶軸(global)――箱の三辺 \(\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3\) が定める、結晶全体に共通の座標軸である。分率座標 \((x,y,z)\) は、いつもこの結晶軸を基準に書いてきた。
もうひとつは八面体の局所軸(local)――一つの CoO₆ 八面体に着目し、中心の Co から6本の Co–O 結合が伸びる三方向を軸にとったものだ。結晶場、すなわち Co の 3d 電子が酸素から受ける電場は、この局所軸の上で語るのが自然である。電子にとって大事なのは「どの方向に酸素がいるか」だからだ。
理想立方ペロブスカイトでは、この二種類の軸はぴたりと重なる。Co–O 結合が結晶軸 \(x,y,z\) にそのまま沿うからだ。だからこのおもちゃの上では、global と local を区別する必要をあまり感じない。だが第8章で八面体が回転しはじめると、局所軸は結晶軸から傾く。そのとき「結晶軸では斜めでも、八面体の局所軸で見れば結合はまっすぐ」という見方が効いてくる。理想立方のうちに、二つの軸が「いまは重なっている」ことを意識しておくと、ずれが起きたときに迷わない。
6 酸素を少し動かすと Co–O–Co 角が変わる
理想八面体は、酸素が面心にぴたりと座っているときの姿だ。では、酸素を本来の位置から少しだけ――分率座標で \(\delta\) だけ――ずらすと、何が起きるか。
注目するのは、二つの Co にはさまれた酸素である。\(z\) 方向に並ぶ Co \((\tfrac12,\tfrac12,\tfrac12)\) と、下の箱の Co \((\tfrac12,\tfrac12,-\tfrac12)\) は、あいだの酸素 \((\tfrac12,\tfrac12,0)\) を共有している。この三つを結ぶ Co–O–Co 角は、理想立方ではまっすぐ、つまり \(180°\) である。酸素がちょうど二つの Co を結ぶ直線の上に乗っているからだ。
ここで酸素を、その直線から横に \(\delta\) だけ押しのけてみる。すると酸素は直線から外れ、Co–O–Co の折れ線が「く」の字に曲がる。角は \(180°\) から減りはじめ、ずらし \(\delta\) が大きいほど深く折れる。逆に酸素を直線に沿って前後に動かしても、三点は一直線のままで角は \(180°\) に保たれる。Co–O–Co 角を変えるのは、酸素の横ずれである――この一点が、第8章で「八面体回転=酸素変位の波」を読むときの核になる。図 4 に、横ずれと前後ずれの違いを並べた。
なぜこの角が大事なのか。Co–O–Co 角は、隣り合う Co どうしが酸素を介してどれだけ強く結びつくかを左右する。\(180°\) にまっすぐ並ぶときと、折れて並ぶときとでは、電子や磁気のやりとりの効きが変わる。構造のこの一つの角度が、物性の違いを生む通り道になる。いまは「角が動く仕組み」を押さえておけば足りる。
小課題 7.2
\(z\) 方向に並ぶ二つの Co にはさまれた酸素 \((\tfrac12,\tfrac12,0)\) を考える。(i) この酸素を \(x\) 方向に分率座標で \(\delta\) だけずらしたとき、Co–O–Co 角は \(180°\) より大きくなるか、小さくなるか、定性的に答えよ。(ii) 代わりに酸素を \(z\) 方向に少しずらしたとき、角はどうなるか。理由を一言添えよ。
解答例
- 酸素を \(x\) 方向にずらすと、酸素が二つの Co を結ぶ \(z\) 軸の直線から横に外れる。三点 Co–O–Co は「く」の字に折れ、角は \(180°\) より小さくなる。横ずれ \(\delta\) が大きいほど深く折れる。(ii) 酸素を \(z\) 方向にずらしても、酸素は依然として二つの Co を結ぶ直線の上に乗ったままだから、三点は一直線で角は \(180°\) のままである。Co–O–Co 角を動かすのは横ずれであって、結合に沿った前後ずれではない、という区別がここで確かめられる。
7 結晶場分裂の直感 ― 八面体場が 3d を分ける
ここまでは形の話だった。最後に、その形が Co の電子に何をするかを、定性的に押さえておく。
Co の 3d 軌道は、孤立した原子の中では5つとも同じエネルギーをもつ(電子の入れ物である軌道のうち、\(d\) という種類は5つで一組になる。なぜ5つかは原子の量子力学が決めることで、本書はその事実だけを借りる)。ところが Co を6個の酸素が八面体に囲むと、事情が変わる。酸素は負に帯電した相手だから、3d 電子から見れば「近づきたくない方向」を作る。5つの 3d 軌道のうち、ちょうど酸素のいる軸方向に張り出した軌道は酸素と正面からぶつかり、エネルギーが上がる。いっぽう酸素と酸素のあいだ(軸の隙間)を向いた軌道は、酸素を避けられるぶんエネルギーが低くてすむ。なぜ「高い・低い」が分かれるのか、その鍵は軌道のローブ(張り出し)がどちらを向くかにある(図 5)。
こうして5つの 3d は、エネルギーの高い2つの組(\(e_g\) と呼ぶ)と、低い3つの組(\(t_{2g}\) と呼ぶ)に分かれる。これを結晶場分裂という。八面体場では「高い2つ・低い3つ」に割れる、という形だけ覚えておけばよい。
flowchart TB
D["孤立した Co の 3d<br>5軌道は同エネルギー"] -->|八面体場(CoO₆)で分裂| EG["e_g(2軌道)<br>酸素の軸方向を向く<br>エネルギー高"]
D --> T2G["t_2g(3軌道)<br>軸の隙間を向く<br>エネルギー低"]
肝心なのは、八面体という形が、電子のエネルギーの並びを決める「舞台」になっているという点だ。Co–O 距離や O–Co–O 角といった局所構造量は、この分裂の大きさを通じて、Co の電子状態に翻訳されていく。構造を物理へ翻訳する、という本書の背骨が、ここで初めて電子の言葉に届く。
本章はこの分裂の「向き」――上に2つ、下に3つ――までで止める。分裂の幅と電子の詰め方が競り合って Co のスピン状態(低スピンか高スピンか)が決まる話は、第9章と姉妹本『LaCoO₃ の構造とスピン状態』に譲る。ここで深入りすると、せっかくのおもちゃの見通しが曇る。いまは「八面体が結晶場を生み、結晶場が 3d を割る」という筋道を、形の側から確かに渡せたことを到達点とする。
8 着地 ― 5原子セルを QE の言葉で書く
第3章末で、格子ベクトルを QE 入力の ibrav や CELL_PARAMETERS に渡す話に触れた。原子の位置のほうは、ATOMIC_POSITIONS crystal というブロックで渡す。crystal は「分率座標で書く」という指定だ。理想立方ペロブスカイトなら、本章で並べた5行がそのまま入力になる。
ATOMIC_POSITIONS crystal
La 0.0 0.0 0.0
Co 0.5 0.5 0.5
O 0.5 0.5 0.0
O 0.5 0.0 0.5
O 0.0 0.5 0.5
見てのとおり、ここに並ぶ数は第2章の分率座標そのものである。元素記号と、\((x,y,z)\) の三つ組。計算機に結晶を渡すとは、煎じ詰めれば「箱の形(格子ベクトル)と、箱の中の住所(分率座標)」を書き写すことにほかならない。5原子のおもちゃは、その最小の練習台になっている。
9 この章の到達点
第1章の格子と基底、第2章の分率座標だけを使って、私たちは5原子の理想ペロブスカイト ABO₃ を組み立てた。A・B・O の三つのサイトを役割で分け、体心の Co を6個の酸素が囲む CoO₆ 八面体を作り、局所構造量として Co–O 距離 \(=a/2\) と O–Co–O 角 \(=90°/180°\) を測った。代表値として \(a\approx3.8\ \text{Å}\)、Co–O \(\approx1.9\ \text{Å}\) というオーダーまで手元で出した。結晶軸(global)と八面体の局所軸(local)が、理想立方ではいまだ重なっていることも確かめた。そして、酸素の横ずれが Co–O–Co 角を曲げること、八面体場が Co の 3d を \(t_{2g}\) と \(e_g\) に割ることを、形の側から渡した。
次章では、いよいよ本物の LaCoO₃ に進む。理想立方というおもちゃから、対称性が一段下がる――八面体がそろって回転し、酸素が「変位の波」として動き、Co–O–Co 角が \(180°\) から折れる。本章でならした局所構造量の物差しが、そこで本物のずれを測る道具になる。結晶場が Co のスピン状態を決める続きは、第9章と姉妹本『LaCoO₃ の構造とスピン状態』が引き取る。おもちゃで筋道を通したからこそ、本物の複雑さを「どこがどうずれたか」として読めるようになる。