6 逆格子ベクトルと √3 補正
間隔 \(a\) で並ぶ原子列には、波数 \(2\pi/a\) の波が対応する。
この素朴な対応が、なぜ六方晶の片方の軸でだけ崩れるのか。
この章のゴール:3次元の逆格子ベクトルを \(\mathbf{a}_i\cdot\mathbf{b}_j=2\pi\delta_{ij}\) という条件から導き、六方晶 Co で \(|\mathbf{b}_1|\neq 2\pi/a\) となる理由(√3 補正)を、直交格子でしか効かない直感の限界として説明できるようになる。あわせてミラー指数と面間隔を短く手に入れる。
前章では、結晶の周期に同期する波――逆格子の波――を、高校物理の正弦波から1次元で立ち上げた。格子点だけを見る観測者には見分けがつかない波があり、その代表範囲がブリルアンゾーンだった。1次元なら、間隔 \(a\) で並ぶ原子列に対応する波数は \(2\pi/a\) ひとつで済む。
だが結晶は3次元で、しかも箱は斜めに傾いていてよい(第1章)。Co の結晶(第3章)は二辺が \(120°\) で交わる六方晶だ。ここで「各方向の周期 \(a\) に波数 \(2\pi/a\) を当てる」という1次元の素朴さを持ち込むと、片方の軸で答えが合わなくなる。はじめにで置いた \(\sqrt{3}\) の石は、この食い違いのことだった。本章はそれを正面から回収する。まず、3次元で「結晶に同期する波」をどう選ぶかを決めるところから始めよう。
1 まず道具を一つ ― 複素指数は「回る矢印」
3次元へ進む前に、波の書き方を一つだけ用意しておく。前章の終わりで「複素数は正弦波と余弦波をまとめた書き方だ」と一言だけ予告した、その中身である。高校でまだ出会っていなくても、絵で押さえれば足りる。
記号 \(\exp(i\theta)\)(\(e^{i\theta}\) とも書く)は、単位円の上を角度 \(\theta\) だけ回った点を指す矢印だと思えばよい。成分で書けば \(\exp(i\theta)=\cos\theta + i\sin\theta\) で、横向き(実部)が余弦、縦向き(虚部)が正弦。\(\theta\) を増やすほど、矢印は反時計回りにくるくる回る。波の「位相」がそのまま矢印の回転角になっている、と読めばよい。
ここで一点だけ、この先で何度も使う事実を押さえる。矢印が出発点(実軸上の \(1\))にちょうど戻るのは、\(\theta\) が \(2\pi\) の整数倍――きっかり何周かしたときである。式で言えば
\[ \exp(i\theta)=1 \iff \theta = 2\pi\times(\text{整数}). \]
高校で習った正弦波が「1周期ごとに同じ値へ戻る」のと、まったく同じことを言っている。回る矢印が一周して戻る、それが位相 \(2\pi\) だ。この一文だけ手に入れれば、逆格子の条件はもう導ける。
2 同期する波を3次元で選ぶ
逆格子の波 \(\exp(i\mathbf{G}\cdot\mathbf{r})\) が結晶の周期に同期する、とは何を要求することか。結晶を並進ベクトル \(\mathbf{R}\)(第1章)だけずらしても波の値が変わらない、ということだ。式で書けば、
\[ \exp\,(i\mathbf{G}\cdot(\mathbf{r}+\mathbf{R})) = \exp\,(i\mathbf{G}\cdot\mathbf{r}) \]
がすべての \(\mathbf{r}\) で成り立つこと。両辺を見比べると、これは \(\exp(i\mathbf{G}\cdot\mathbf{R})=1\) と同じである。指数関数が \(1\) に戻るのは位相が \(2\pi\) の整数倍のときだから、
\[ \mathbf{G}\cdot\mathbf{R} = 2\pi\times(\text{整数}) \]
が条件になる。第1章で「整数倍の並進だけが結晶を自分自身に戻す」と心にとめておいた一点が、ここで波の言葉に翻訳された。並進が整数倍 \(\mathbf{R}=n_1\mathbf{a}_1+n_2\mathbf{a}_2+n_3\mathbf{a}_3\) で書ける以上、上の条件は各格子ベクトルについて
\[ \mathbf{G}\cdot\mathbf{a}_i = 2\pi\times(\text{整数}) \qquad (i=1,2,3) \]
が成り立てば自動的に満たされる。
3 逆格子ベクトル ― 位相がちょうど 2π 進むように選ぶ
許される \(\mathbf{G}\) を、実空間の \(\mathbf{R}\) と同じように「基本ベクトルの整数結合」で書きたい。そこで3本の逆格子ベクトル \(\mathbf{b}_1,\mathbf{b}_2,\mathbf{b}_3\) を用意し、
\[ \mathbf{G} = h\,\mathbf{b}_1 + k\,\mathbf{b}_2 + l\,\mathbf{b}_3 \qquad (h,k,l\in\mathbb{Z}) \]
と表すことを目指す。このとき \(\mathbf{G}\cdot\mathbf{a}_i\) が必ず \(2\pi\) の整数倍になるように \(\mathbf{b}_j\) を選べばよい。いちばん見通しのよい選び方は、各 \(\mathbf{b}_j\) を「対応する \(\mathbf{a}_j\) の方向にだけ位相をちょうど \(2\pi\) 進め、ほかの軸には位相を進めない」ベクトルにとることだ。式にすると、
\[ \mathbf{a}_i\cdot\mathbf{b}_j = 2\pi\,\delta_{ij} \qquad\left(\delta_{ij}=\begin{cases}1 & (i=j)\\ 0 & (i\neq j)\end{cases}\right) \]
である。これを満たせば、\(\mathbf{G}\cdot\mathbf{a}_i = h(\mathbf{a}_i\cdot\mathbf{b}_1)+k(\mathbf{a}_i\cdot\mathbf{b}_2)+l(\mathbf{a}_i\cdot\mathbf{b}_3) = 2\pi\times(h\text{ か }k\text{ か }l)\) となり、確かに \(2\pi\) の整数倍になる。逆格子ベクトルは天下りの定義ではなく、同期の条件を満たすように位相の進み方を指定したベクトルだと読める。
\(\mathbf{a}_i\cdot\mathbf{b}_j=2\pi\delta_{ij}\) は、「\(\mathbf{b}_j\) は自分の相棒 \(\mathbf{a}_j\) の方向にだけ位相を \(2\pi\) 進め、ほかの2軸には位相を進めない」という指定である。1次元の \(b=2\pi/a\) を3次元へ広げたものにほかならない。
この条件は、\(\mathbf{b}_j\) を具体的に書き下すこともできる。\(\mathbf{b}_1\) は「\(\mathbf{a}_2\) にも \(\mathbf{a}_3\) にも位相を進めない」、つまり \(\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3\) の両方に垂直でなければならない。両方に垂直なベクトルは外積 \(\mathbf{a}_2\times\mathbf{a}_3\) の向きだから、長さだけ \(\mathbf{a}_1\cdot\mathbf{b}_1=2\pi\) で合わせて、
\[ \mathbf{b}_1 = 2\pi\,\frac{\mathbf{a}_2\times\mathbf{a}_3}{V},\quad \mathbf{b}_2 = 2\pi\,\frac{\mathbf{a}_3\times\mathbf{a}_1}{V},\quad \mathbf{b}_3 = 2\pi\,\frac{\mathbf{a}_1\times\mathbf{a}_2}{V} \]
と書ける。分母の \(V=\mathbf{a}_1\cdot(\mathbf{a}_2\times\mathbf{a}_3)\) は単位胞体積(第2章)である。\(\mathbf{a}_1\cdot\mathbf{b}_1 = 2\pi\,\mathbf{a}_1\cdot(\mathbf{a}_2\times\mathbf{a}_3)/V = 2\pi\)、\(\mathbf{a}_2\cdot\mathbf{b}_1 = 2\pi\,\mathbf{a}_2\cdot(\mathbf{a}_2\times\mathbf{a}_3)/V = 0\) と、条件がそのまま確かめられる。ここで早くも、\(\mathbf{b}_1\) が垂直になる相手は \(\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3\) であって \(\mathbf{a}_1\) ではないことに気づく。\(\mathbf{a}_1\) と \(\mathbf{a}_2\) が直角でない六方晶では、この一点が効いてくる。
4 √3 補正を回収する
道具がそろった。第3章で組み立てた hcp Co の格子ベクトルを、実際に逆格子へ写してみよう。格子定数は \(a=2.51\ \text{Å}\), \(c=4.07\ \text{Å}\)、格子ベクトルは
\[ \mathbf{a}_1 = (a,0,0),\quad \mathbf{a}_2 = \left(-\tfrac{a}{2},\ \tfrac{\sqrt3}{2}a,\ 0\right),\quad \mathbf{a}_3 = (0,0,c) \]
だった(底面が一辺 \(a\) の \(120°\) ひし形、高さ \(c\))。体積は第2章で \(V=\tfrac{\sqrt3}{2}a^2c\approx 22.21\ \text{Å}^3\) と求めてある。これを公式に入れる。まず面内の \(\mathbf{b}_1\) は、\(\mathbf{a}_2\times\mathbf{a}_3=\left(\tfrac{\sqrt3}{2}ac,\ \tfrac{1}{2}ac,\ 0\right)\) を使って、
\[ \mathbf{b}_1 = \frac{2\pi}{V}\left(\tfrac{\sqrt3}{2}ac,\ \tfrac{1}{2}ac,\ 0\right) = \left(\frac{2\pi}{a},\ \frac{2\pi}{\sqrt3\,a},\ 0\right) \]
となる。ここが山場である。\(\mathbf{b}_1\) の \(x\) 成分はちょうど素朴な \(2\pi/a\) だが、それで終わらない。\(y\) 成分 \(2\pi/(\sqrt3\,a)\) が残る。なぜ残るのか。\(\mathbf{b}_1\) は \(\mathbf{a}_2\) に垂直でなければならず、その \(\mathbf{a}_2\) が \(\mathbf{a}_1\) から \(120°\) 傾いているからだ。\(\mathbf{b}_1\) は \(\mathbf{a}_1\) と平行にはならず、\(x\) 軸から \(30°\) だけ起き上がる。その分だけ長さが伸びて、
\[ |\mathbf{b}_1| = \sqrt{\left(\frac{2\pi}{a}\right)^2 + \left(\frac{2\pi}{\sqrt3\,a}\right)^2} = \frac{2\pi}{a}\sqrt{1+\tfrac13} = \frac{2\pi}{a}\cdot\frac{2}{\sqrt3} = \frac{4\pi}{\sqrt3\,a} \approx 2.89\ \text{Å}^{-1}. \]
素朴な見積もり \(2\pi/a\approx 2.50\ \text{Å}^{-1}\) とは合わない。両者の比はちょうど \(2/\sqrt3\approx 1.155\)、第2章で斜めの箱の体積に現れたのと同じ \(\sqrt3\) が、こんどは逆空間の長さに顔を出している。なぜ余分が出るのか、その幾何を 図 1 に描いた。
いっぽう \(c\) 方向はどうか。\(\mathbf{a}_3\) は面内の \(\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2\) と直角に交わる。だから \(\mathbf{b}_3\) は素直で、
\[ \mathbf{b}_3 = \frac{2\pi}{V}\,(\mathbf{a}_1\times\mathbf{a}_2) = \left(0,\,0,\,\frac{2\pi}{c}\right), \qquad |\mathbf{b}_3| = \frac{2\pi}{c} \approx 1.544\ \text{Å}^{-1} \]
と、素朴な公式 \(2\pi/c\) がぴったり成り立つ。
片方が合って片方がずれる理由は、ひとつの幾何に尽きる。\(\mathbf{b}_j\) が垂直になる相手は「自分以外の2軸」である。直角に交わる \(c\) 方向では、相手の軸との垂直が \(\mathbf{a}_3\) への平行と一致するので \(|\mathbf{b}_3|=2\pi/c\) がそのまま効く。\(120°\) で交わる面内では、垂直の相手 \(\mathbf{a}_2\) が傾いているせいで \(\mathbf{b}_1\) は \(\mathbf{a}_1\) から起き上がり、長さが \(2/\sqrt3\) 倍に伸びる。素朴な \(2\pi/a\) の直感は、軸が直角に交わる直交格子でしか効かない――これが石の正体だ。
| 方向 | 素朴な見積もり | 正しい値 | 一致するか |
|---|---|---|---|
| 面内(\(\mathbf{a}_1\) 方向) | \(2\pi/a\approx2.50\ \text{Å}^{-1}\) | \(4\pi/(\sqrt3\,a)\approx2.89\ \text{Å}^{-1}\) | ずれる(\(\times2/\sqrt3\)) |
| \(c\) 方向(\(\mathbf{a}_3\) 方向) | \(2\pi/c\approx1.544\ \text{Å}^{-1}\) | \(2\pi/c\approx1.544\ \text{Å}^{-1}\) | ぴったり |
図を一枚見ておこう。
図 2 を読むときは、二つのパネルの軸の単位が違うことに気をつけたい。実空間パネルは Å、逆空間パネルは Å⁻¹ で、長さの絶対値を直接見比べる図ではない。面内で読むべきは角度――実空間で \(120°\) をなす二軸が、逆空間では \(60°\) に変わること――であり、長さの反比例は直角に交わる \(c\) 軸パネルで読む。長い実空間の \(c=4.07\ \text{Å}\) が、短い逆格子の \(|\mathbf{b}_3|=1.544\ \text{Å}^{-1}\) に対応している。
5 実空間で長い方向は、逆空間で短い
いま \(c\) 軸パネルで見たことを、一般則として取り出しておこう。直交する方向では \(|\mathbf{b}_3|=2\pi/c\) だから、実空間の周期 \(c\) と逆空間の長さ \(|\mathbf{b}_3|\) は反比例する。実空間で長い方向は、逆空間で短い。この一文は、後の二つの章でそのまま効く。
たとえば、\(c\) 軸方向に単位胞を2倍に引き伸ばした超胞(第1章)を考える。周期が \(c\to 2c\) になれば、
\[ |\mathbf{b}_3| = \frac{2\pi}{2c} = \frac{\pi}{c} \approx 0.772\ \text{Å}^{-1} \]
と半分に縮む。逆格子が縮めば、波数の代表範囲であるブリルアンゾーン(第4章)も、その方向に半分の幅になる。実空間で箱を大きくとるほど、逆空間のブリルアンゾーンは小さくなる――この反比例が、第6章で「大きな箱ほど少ない k 点で足りる」理由になり、第8章で八面体回転のために周期を延ばすとき、ブリルアンゾーンがどう畳まれるかの下地になる。
6 ミラー指数と面間隔 ― 逆格子で面を指す
逆格子ベクトルは、波数を表すだけでなく、結晶の面を指す道具にもなる。整数の組 \((hkl)\) を選んで作った
\[ \mathbf{G}_{hkl} = h\,\mathbf{b}_1 + k\,\mathbf{b}_2 + l\,\mathbf{b}_3 \]
は、\((hkl)\) という面の一族に垂直な向きをもつ。この \((hkl)\) をミラー指数と呼ぶ。\(\mathbf{G}_{hkl}\) が面に垂直なのは、\(\mathbf{G}_{hkl}\) が同期する波の波面――位相の等しい平面――が、まさに格子面に重なるからである。そして面と面の間隔は、\(\mathbf{G}_{hkl}\) の長さの逆数で測れて、
\[ d_{hkl} = \frac{2\pi}{|\mathbf{G}_{hkl}|} \]
となる。逆格子の長さが面間隔の逆数を与える、というこの関係は、「実空間で長い方向は逆空間で短い」をそのまま面の言葉で言い直したものだ。図 3 に、面・\(\mathbf{G}\)・\(d\) の三者の関係を描いた。
ここまで来ると、X線回折のブラッグ条件 \(2d\sin\theta=n\lambda\) に橋がかかる。回折が起こるのは、入射波と散乱波の波数の差がちょうど逆格子ベクトル \(\mathbf{G}_{hkl}\) に一致するときで、その幾何を角度で書き直したものがブラッグ条件にほかならない。\(d_{hkl}=2\pi/|\mathbf{G}_{hkl}|\) は、結晶構造と回折線の位置を結ぶ蝶番である。深入りはここまでにして、面間隔を実際に手で測ってみよう。
小課題 5.1
\(c\) 軸方向に単位胞を2倍に引き伸ばした超胞では、\(\mathbf{b}_3\) の長さとブリルアンゾーンの \(c^\ast\) 方向の幅がどうなるかを答えよ。さらに、もし \(a\) 方向(面内)を2倍にしたら \(|\mathbf{b}_1|\) はどうなるか、\(|\mathbf{b}_1|=4\pi/(\sqrt3 a)\) から見積もれ。実空間を伸ばす向きと逆空間が縮む向きの対応を一言でまとめよ。
解答例
\(c\to 2c\) なら \(|\mathbf{b}_3|=2\pi/(2c)=\pi/c\approx0.772\ \text{Å}^{-1}\) と半分になり、ブリルアンゾーンの \(c^\ast\) 方向の幅も半分に縮む。\(a\to 2a\) なら \(|\mathbf{b}_1|=4\pi/(\sqrt3\cdot2a)=2\pi/(\sqrt3 a)\approx1.445\ \text{Å}^{-1}\) と、やはり半分になる。向きの対応は単純で、実空間で伸ばした方向に対応する逆格子が、同じ割合で縮む。箱を大きくとるほど、その方向の逆空間は細かく刻まれる。
小課題 5.2
一辺 \(a\) の立方格子(\(\mathbf{a}_1=(a,0,0)\) 等)と、hcp Co(\(a=2.51\ \text{Å}, c=4.07\ \text{Å}\))について、\((100)\) 面と \((001)\) 面の面間隔 \(d_{100},\,d_{001}\) を比べよ。立方格子では素朴な「\(d=a\)」が成り立つか。hcp Co ではどちらの面で素朴な値からずれ、どちらでぴったり合うかを、√3 補正と結びつけて述べよ。
解答例
立方格子では \(|\mathbf{b}_1|=|\mathbf{b}_3|=2\pi/a\) だから、\(d_{100}=d_{001}=2\pi/(2\pi/a)=a\)。三軸が直角なので、素朴な「面間隔 = 格子定数」がそのまま効く。hcp Co では事情が分かれる。\((001)\) 面は \(d_{001}=2\pi/|\mathbf{b}_3|=c=4.07\ \text{Å}\) と、直交する \(c\) 方向なので格子定数そのものに一致する。いっぽう \((100)\) 面は \(d_{100}=2\pi/|\mathbf{b}_1|=2\pi/(4\pi/(\sqrt3 a))=\tfrac{\sqrt3}{2}a\approx2.17\ \text{Å}\) で、素朴に期待する \(a=2.51\ \text{Å}\) より小さい。ここでも比は \(\sqrt3/2\approx0.866\)――面内の \(\sqrt3\) 補正が、逆空間の長さだけでなく実空間の面間隔にも同じ顔で現れる。直角な軸では素朴な直感が効き、\(120°\) の軸では \(\sqrt3\) が割って入る、という同じ構図である。
7 この章の到達点
結晶に同期する波の条件 \(\exp(i\mathbf{G}\cdot(\mathbf{r}+\mathbf{R}))=\exp(i\mathbf{G}\cdot\mathbf{r})\) から \(\mathbf{G}\cdot\mathbf{R}=2\pi\times\)整数を引き出し、それを満たすように逆格子ベクトルを \(\mathbf{a}_i\cdot\mathbf{b}_j=2\pi\delta_{ij}\) で選んだ。1次元の \(b=2\pi/a\) を3次元へ広げたこの条件が、はじめにで置いた石を回収した。\(\mathbf{b}_j\) が垂直になる相手は自分以外の2軸なので、直角に交わる \(c\) 方向では \(|\mathbf{b}_3|=2\pi/c\) がぴったり成り立ち、\(120°\) で交わる面内では \(\mathbf{b}_1\) が起き上がって \(|\mathbf{b}_1|=4\pi/(\sqrt3 a)\approx2.89\ \text{Å}^{-1}\) と \(2\pi/a\approx2.50\) から \(2/\sqrt3\) 倍ずれる。素朴な直感は直交格子でしか効かない、を量で示せたことになる。
ついでに、逆格子は面を指す道具でもあった。\(\mathbf{G}_{hkl}=h\mathbf{b}_1+k\mathbf{b}_2+l\mathbf{b}_3\) は \((hkl)\) 面に垂直で、面間隔は \(d_{hkl}=2\pi/|\mathbf{G}_{hkl}|\)。これがブラッグ条件への蝶番になる。そして「実空間で長い方向は逆空間で短い」という反比例は、次章へ持ち越す。波数の代表範囲であるブリルアンゾーンを、計算機は何点で標本化すれば足りるのか――k 点の話へ進もう。