block-beta
columns 2
block:coarse
columns 2
A1["•"] A2["•"]
A3["•"] A4["•"]
end
block:fine
columns 4
B1["•"] B2["•"] B3["•"] B4["•"]
B5["•"] B6["•"] B7["•"] B8["•"]
B9["•"] B10["•"] B11["•"] B12["•"]
B13["•"] B14["•"] B15["•"] B16["•"]
end
7 k点は波のサンプリング
ブリルアンゾーンの中には、波数が連続して詰まっている。
そのすべてを見ることができないとき、どこを何点だけ見れば足りるのか。
この章のゴール:k点を「ブリルアンゾーンをどれくらい細かく標本化するか」として説明でき、金属でこの細かさが効く理由を述べ、QE の K_POINTS の数字を構造の言葉で読めるようになる。
第4章で、電子の状態は波数 \(\mathbf{k}\) で分類でき、その代表範囲が第一ブリルアンゾーン(1次元なら \(-\pi/a\le k\le\pi/a\))だと分かった。全エネルギーや磁気モーメントといった物理量は、原理上、この BZ の中の \(\mathbf{k}\) をすべて見て足し合わせれば求まる。ところが BZ の中には \(\mathbf{k}\) が連続して、つまり無限に詰まっている。すべてを足すことは、人にも計算機にもできない。
ここで第1章の手口がもう一度効く。あのとき私たちは、無限に続く実空間の結晶を、ひとつの箱と並べる規則という有限のデータに畳んだ。同じことを逆空間でする。連続して詰まった \(\mathbf{k}\) を、BZ の中に置いた有限個の代表点で代える。この代表点が k点である。k点とは、BZ をどれくらい細かく見るか――波数の標本化の細かさ――を決める道具だ。
1 周期境界条件が k を離散にする
なぜ連続だった \(\mathbf{k}\) を、とびとびの点で代えてよいのか。その根拠は、計算機が結晶を有限に持つために置く約束にある。
計算機は無限の結晶を扱えないので、各方向に箱を \(N_1, N_2, N_3\) 個だけ並べ、その端と端をつなぐ。\(\mathbf{a}_1\) 方向に \(N_1\) 個進んだ先が、ふたたび出発点に重なる、という巻きつけの約束だ(周期境界条件)。波がこの巻きつけと両立するには、\(N_1\) 箱を一周したときに位相がちょうど整数回まわっていなければならない。この条件が、許される \(\mathbf{k}\) を
\[ \mathbf{k} = \frac{m_1}{N_1}\mathbf{b}_1 + \frac{m_2}{N_2}\mathbf{b}_2 + \frac{m_3}{N_3}\mathbf{b}_3 \qquad (m_1, m_2, m_3 \in \mathbb{Z}) \]
に絞る。逆格子ベクトル \(\mathbf{b}_i\) を \(N_i\) で割った刻みで、\(\mathbf{k}\) がとびとびに並ぶ。BZ ひとつの中に入る \(\mathbf{k}\) の数は、ちょうど \(N_1 N_2 N_3\) 個である。
ここに、第5章で見た実空間と逆空間の裏返しが、そのまま顔を出す。実空間で箱を多く並べる(\(N_i\) を大きくする)ほど、逆空間の刻み \(|\mathbf{b}_i|/N_i\) は細かくなり、\(\mathbf{k}\) は密に詰まる。\(N_i\) を無限に大きくすれば刻みは \(0\) に近づき、\(\mathbf{k}\) は連続して BZ を埋める――もとの無限結晶に戻る。実空間でどれだけ並べるかと逆空間でどれだけ密に \(\mathbf{k}\) を拾うかは、同じ一つの選択の表と裏なのだ。
2 BZ をメッシュで標本化する
実際の計算では、\(N_i\) を原子の数まで大きくとる必要はない。BZ の中に手ごろな間隔で格子状の点を置き、その上だけで電子の状態を調べて平均すれば、連続の足し合わせの良い近似になる。BZ を \(\mathbf{b}_1\) 方向に \(n_1\) 等分、\(\mathbf{b}_2\) 方向に \(n_2\) 等分、\(\mathbf{b}_3\) 方向に \(n_3\) 等分して点を打つ。この格子状の標本点を n1 n2 n3 メッシュ(Monkhorst–Pack 型のメッシュ)と呼ぶ。\(n_1 n_2 n_3\) の三つの数を選ぶことが、すなわち標本化の細かさを選ぶことだ。
いちばん簡単な1次元で見よう。BZ は長さ \(2\pi/a\) の区間だった。これを \(n\) 等分すれば、\(n\) 個の代表波数が等間隔に並ぶ。\(n\) が小さければ拾える波数は粗く飛び飛びに、\(n\) が大きければ細かく刻まれる。2次元なら正方形の BZ に \(n_1\times n_2\) の格子、3次元なら箱の BZ に \(n_1\times n_2\times n_3\) の格子を置く――やっていることは、1次元の等分を各方向に重ねるだけである。
粗いメッシュは、BZ の中をまばらにしか見ない。波数が細かく変化する場所では、点と点のあいだで何が起きているかを取りこぼす。メッシュを細かくするほど、その取りこぼしが減り、物理量は本来の値へ近づく。どこまで細かくすれば足りるかは、結晶が金属か絶縁体かで大きく変わる。ここが次節の主題だ。
3 金属では、細かさが効く
絶縁体や半導体では、電子は決まった準位まできっちり詰まり、空いた準位とのあいだにすき間(バンドギャップ)がある。詰まり方が \(\mathbf{k}\) によらず滑らかなので、粗いメッシュでも足し合わせはわりに早く落ち着く。
金属はそうはいかない。金属では電子がある高さ(フェルミ準位)まで詰まり、そこを境に詰まった状態と空の状態が切り替わる。この境目は逆空間の中で一枚の面――フェルミ面――をなす。\(\mathbf{k}\) がフェルミ面の内側なら詰まっている、外側なら空、という具合に、面をまたぐと状態の詰まり方が急に変わる。
標本化の細かさが効くのは、まさにこのフェルミ面の近くだ。BZ にまばらな格子を置いて足し合わせると、その格子点がフェルミ面に対してどこに落ちるかで、面の位置の拾い方が変わってしまう。粗いメッシュではフェルミ面の場所がうまく定まらず、全エネルギーは刻みを変えるたびに上下に振れる。メッシュを細かくしてフェルミ面を十分に解像すると、値は一つの高さへ落ち着いていく。図 2 で、その粗密の違いを見比べてほしい。
Co のような磁性金属では、この敏感さがもう一段強まる。磁気モーメントは、上向きスピンと下向きスピンの電子数の差として決まる。どちらの数もフェルミ面までの詰まり具合で決まるから、その差はフェルミ面の拾い方に二重に左右される。粗いメッシュでは磁気モーメントもエネルギーと並んで暴れ、細かくして初めて安定する。なぜモーメントがスピンごとの詰まり方の差で決まるのかは、第9章であらためて扱う。
本書の数値について(捏造を避ける)
本書は Co の実際の QE 計算データを持っていない。そこでここでの収束のふるまいは、具体的な meV の値を「測定値」として示すことをせず、定性的な傾向として述べている。すなわち「粗いメッシュでは値が振れ、細かくするにつれて一つの値へ落ち着く」という向きだけが模式的に正しい。もし収束曲線を数値で描く場合も、それは教材用の模式値であって、実測の収束表ではない。実際にどのメッシュで十分かは、計算する物質ごとに自分で刻みを変えながら確かめるべき量である。図 3 に、その落ち着き方の模式を示す。
4 異方性 ― c が長いほど、その向きの k点は少なくてよい
ここまでは三方向を同じ数で刻むかのように話してきた。だが Co の BZ は、方向によって長さが違う。第5章で、実空間で長い方向は逆空間で短くなることを見た。Co は \(c\approx4.07\) Å と \(c\) 軸が長いから、それに対応する逆格子ベクトルは \(|\mathbf{b}_3|=2\pi/c\approx1.544\) Å⁻¹ と短い。いっぽう底面側は \(a\approx2.51\) Å と短く、\(|\mathbf{b}_1|\approx2.89\) Å⁻¹ と長い(これらの値は第5章で確かめた)。
標本化で揃えたいのは、各方向の刻みの絶対的な細かさ \(|\mathbf{b}_i|/n_i\)(単位は Å⁻¹)である。\(c^\ast\) 方向はそもそも BZ が短いのだから、同じ刻みに達するのに必要な分割数は少なくて済む。\(|\mathbf{b}_3|\) は \(|\mathbf{b}_1|\) のおよそ半分(\(1.544/2.89\approx0.53\))だから、刻みだけをそろえるなら \(c\) 方向の分割は底面の半分ほど(\(12\times0.53\approx6\))が目安になる。実際には安全をみて少し多めにとることもあり、Co のメッシュは、たとえば 12 12 8 のように第3成分だけ小さめにとる――刻みを完全にそろえる値というより、第3方向を粗くしすぎない例だと思えばよい。
flowchart LR
A["実空間<br>c が長い(4.07 Å)"] --> B["逆空間<br>c* が短い(|b₃|≈1.544 Å⁻¹)"]
B --> C["同じ刻み |bᵢ|/nᵢ なら<br>c 方向の分割 n₃ は少なくてよい"]
C --> D["メッシュ例<br>12 12 8(第3成分が小さい)"]
同じ論理は、第1章で出会った超胞にもそのまま効く。実空間で \(c\) 方向を2倍にとった超胞では、第5章で見たとおり逆空間の周期が半分になり、BZ もその向きに半分へ縮む。縮んだ BZ を同じ密度で標本化するなら、必要な k点の分割数も半分でよい。実空間で箱を大きくとった分、逆空間では k点を減らせる――これも、実空間と逆空間の裏返しの一例である。
小課題 6.1
1次元の BZ(長さ \(2\pi/a\) の区間)に、\(n=4\) のメッシュを等間隔に手で打て。次に、同じ要領で2次元の正方 BZ に \(4\times4\) のメッシュを、3次元の箱型 BZ に \(4\times4\times4\) のメッシュを描け(3次元は見取り図でよい)。それぞれ、BZ の中に k点が何個あるかを数えよ。\(n\) を2倍の \(8\) にしたら、点の間隔と総数はどう変わるか。
解答例
点の数は、1次元で \(4\)、2次元で \(4^2=16\)、3次元で \(4^3=64\) 個になる。\(n\) を \(8\) に倍増すると、隣り合う点の間隔(\(\propto 1/n\))は半分になり、拾える波数が倍密になる。総数は1次元で \(8\)、2次元で \(64\)、3次元で \(512\) と、次元の数だけ掛かって増える。細かさは各方向で線形に効くが、総点数は次元乗で効く――3次元の金属でメッシュを倍にする計算が急に重くなるのは、このためだ。第1章で「箱の取り方が計算の重さを左右する」と言ったことが、k点の数として具体的な数になって返ってくる。
小課題 6.2
Co について 6 6 4 と 12 12 8 の二つのメッシュを比べる。第5章の値 \(|\mathbf{b}_1|\approx2.89\) Å⁻¹, \(|\mathbf{b}_3|\approx1.544\) Å⁻¹ を使い、各メッシュで底面方向(\(\mathbf{b}_1\))と \(c\) 方向(\(\mathbf{b}_3\))の刻み \(|\mathbf{b}_i|/n_i\) を求めよ。6 6 4 から 12 12 8 へ移ると、拾える波数の細かさはどう変わるか。また、どちらのメッシュでも第3成分だけ数が小さいのはなぜか、構造の言葉で答えよ。
解答例
刻みを計算すると、6 6 4 では底面方向 \(2.89/6\approx0.48\) Å⁻¹、\(c\) 方向 \(1.544/4\approx0.39\) Å⁻¹。12 12 8 では底面方向 \(2.89/12\approx0.24\) Å⁻¹、\(c\) 方向 \(1.544/8\approx0.19\) Å⁻¹。各方向の分割を2倍にしたので、刻みはどちらの向きもほぼ半分になり、拾える波数が倍密になる。フェルミ面の近くをそれだけ細かく見られるので、金属 Co のエネルギーや磁気モーメントはより安定する。第3成分が小さいのは、\(c\) 軸が実空間で長い(\(4.07\) Å)ぶん \(c^\ast\) 方向の BZ が短く(\(|\mathbf{b}_3|\) が \(|\mathbf{b}_1|\) の約半分)、同じ刻みに達するのに少ない分割で足りるからだ。実空間の \(c\) の長さが、逆空間の k点の数にそのまま映っている。
5 QE で読む ― K_POINTS automatic 12 12 8 0 0 0
これまでの章末と同じく、いま組み立てた見方を計算機の入力に着地させよう。QE で k点メッシュを渡す行は、次のように書く。
K_POINTS automatic
12 12 8 0 0 0
automatic は「規則的なメッシュを自動で作れ」という指定だ。続く六つの数のうち、前半の 12 12 8 が各逆格子方向 \(\mathbf{b}_1, \mathbf{b}_2, \mathbf{b}_3\) の分割数、すなわち標本化の細かさである。後半の 0 0 0 はメッシュ全体のずらし量(オフセット)で、0 0 0 なら BZ の中心 \(\Gamma\) を起点に格子を置く。
読みどころは第3成分が小さいことだ。12 12 8 の 8 は、\(c\) 方向の k点を底面方向より少なくとっている。その理由は、これまで見たとおり構造の言葉で言い切れる――Co は \(c\) 軸が長いから、逆空間では \(c^\ast\) が短く、同じ刻みで標本化するなら分割数は少なくてよい。もし第8章や第9章で \(c\) 方向に伸びた超胞を扱えば、BZ はさらにその向きに縮み、第3成分はもう一段小さくなる。K_POINTS の三つの数字は、結晶の形(どの方向が長いか、超胞でどこを伸ばしたか)を逆空間に翻訳した結果なのである。
6 この章の到達点
連続して詰まった \(\mathbf{k}\) を、BZ の中の有限個の代表点――k点――で代えられることを見た。周期境界条件が \(\mathbf{k}\) を離散にし、n1 n2 n3 メッシュがその標本化の細かさを与える。絶縁体では粗いメッシュで足りるが、金属 Co ではフェルミ面の近くを細かく見ないと、全エネルギーも磁気モーメントも落ち着かない。そして実空間で長い \(c\) 方向は逆空間で短いため、その向きの k点は少なくてよく、超胞ではさらに減る。この細かさの選び方が、K_POINTS automatic 12 12 8 0 0 0 の三つの数字の意味そのものだった。
第II部で、結晶を波として見る道具――逆格子、ミラー指数、ブリルアンゾーン、そして k点――がそろった。次の第III部では、いよいよ題材を実物質へ近づける。原子5個のおもちゃ、理想ペロブスカイト ABO₃ を組み立て、CoO₆ 八面体と結晶場のつながりへと進む。