6  何を変え、何を固定すればよいか

振り子の周期は、何で決まるのか。

まだ答えを書かなくてよい。 ただし、「効きそうだ」と思う要因を三つ、余白に書いておいてほしい。 あとで使う。

振り子の周期に影響を与えそうなものを挙げてみる。 糸の長さ、おもりの質量、振れ幅、糸の太さ、おもりの形、 空気抵抗、糸を吊るす位置の高さ── 候補は次々に出てくる。

しかし、候補を挙げただけでは「何が効いているか」は分からない。 効いているかどうかを確かめるには、 一つだけを変えて、残りを全部そろえた状態で結果を比べる必要がある。

この発想は新しくない。 第4章で扱った「隠れた条件」、第5章で扱った「モデルの前提」は、 いずれも「何がそろっていて何が変わっているか」の問題であった。 この章では、その問題を実験の設計として具体化する。

科学の議論の大きな特徴の一つは、 比較の公平さを意図的に設計する点である。 何を変え、何を測り、何を固定するか── この三つを明示することが、因果を主張するための最低条件である。

6.1 「効きそうなもの」を洗い出す

振り子の周期に影響しそうな要因を、まず網羅的に書き出す。 この段階では、正しいかどうかは気にしない。 「ありそうだ」と思うものをすべて挙げることが目的である。

  • 糸の長さ
  • おもりの質量
  • 振れ幅(振幅)
  • 糸の太さ・材質
  • おもりの形(球か立方体か)
  • 空気の密度(標高や気圧)
  • 重力加速度(地球上の場所による違い)
  • 糸を吊るす支点の摩擦

これだけの要因があるとき、 「振り子の周期は糸の長さで決まる」と主張するためには、 糸の長さだけを変えた実験が必要になる。 もし糸の長さとおもりの質量を同時に変えてしまったら、 結果が変わったとしても、 それが長さのせいなのか質量のせいなのか区別できない。

原因を言うためには、変えたものと固定したものを示さなければならない。

この発想は、第4章で学んだ「比較条件」と直結している。 「何と何を比べているのか」を明示することが、 条件付き主張の骨組みであった。 実験では、この「比較」を物理的に作り出す。

小課題 6-1

次の三つの問いについて、結果に影響しそうな要因を五つ以上挙げよ。 この段階では正しさを気にせず、思いつく限り列挙すること。

  1. 「紙飛行機はどれくらい遠くまで飛ぶか」
  2. 「氷が溶けるまでの時間はどれくらいか」
  3. 「斜面を転がるボールの速さは、底でどれくらいになるか」

解答例 6-1

問1「紙飛行機はどれくらい遠くまで飛ぶか」

紙の大きさ、紙の厚さ・重さ、折り方(翼の形状)、投げる角度、投げる力(初速度)、投げる高さ、風の有無と向き、室内か屋外か、空気の密度(湿度・気温)。

問2「氷が溶けるまでの時間はどれくらいか」

氷の量(質量)、氷の形(表面積)、氷の初期温度、周囲の温度、容器の材質と形、風の有無、日光の当たり具合、氷に含まれる不純物、「溶ける」の定義(完全に液体になるまでか、最後のかけらが消えるまでか)。


問3「斜面を転がるボールの速さは、底でどれくらいになるか」

斜面の角度、斜面の高さ(または長さ)、斜面の表面の材質(摩擦の大きさ)、ボールの質量、ボールの半径と形状、ボールの材質(転がり摩擦に影響)、ボールを置く位置(斜面の上端か途中か)、初速度(静かに離すか押すか)、空気抵抗(ボールの大きさと速度による)、斜面が直線か曲線か。

6.2 何を変え、何を測り、何をそろえるか

前節で洗い出した要因を、実験で使える形に整理する。 ここで導入するのが、三つの変数の区別である。

独立変数(変えるもの)
実験者が意図的に変化させる要因。「原因の候補」にあたる。
従属変数(測るもの)
独立変数を変えたときに変化するかどうかを観察する量。「結果」にあたる。
統制変数(そろえるもの)
独立変数以外の要因のうち、結果に影響しうるもの。公平な比較のために一定に保つ。

振り子の例で整理する。

「糸の長さが周期に影響するか」を調べたいとする。

表 6.1: 振り子実験の変数整理
変数の種類 この実験では 具体的に
独立変数 糸の長さ 30 cm、50 cm、70 cm、100 cm
従属変数 周期(10往復の時間 ÷ 10) ストップウォッチで測定
統制変数 それ以外すべて おもりの質量(同じ 50 g の球)、振れ幅(10°)、糸の材質(同じ綿糸)、測定場所(同じ部屋)

ここで重要なのは、統制変数の欄である。 「それ以外すべて」と書いたが、 実際には「すべて」を完全にそろえることは不可能である。 室温は時間とともにわずかに変わるし、 糸の結び方もまったく同じにはできない。

しかし、結果に大きく影響しそうなものを意識的にそろえることはできる。 前節で要因を洗い出した意味はここにある。 候補を多く挙げるほど、 「何をそろえるべきか」の見落としが減る。

何を変えたかが明確でないと、何が原因かは言えない。 何を測ったかが明確でないと、何が結果かも言えない。

第5章で扱った「モデルの前提」との接続を確認しておく。 モデルが「捨てたもの」は、実験では統制変数として固定するか、 影響が小さいことを確認して無視する。 たとえば、振り子の周期を \(T = 2\pi\sqrt{L/g}\) で予測するモデルは、 空気抵抗とおもりの大きさを捨てている。 実験でこのモデルを検証するときは、 空気抵抗が効きにくい条件(小さくて重い球、小さな振れ幅)を選び、 おもりの大きさが周期に影響しないことを統制変数として管理する。

小課題 6-2

次の三つの問いについて、独立変数・従属変数・統制変数を表で整理せよ。 統制変数は少なくとも三つ挙げること。

  1. 「おもりの質量は振り子の周期に影響するか」
  2. 「斜面の角度は、物体が底に到達するまでの時間に影響するか」
  3. 「紙飛行機の翼の面積は、飛距離に影響するか」

解答例 6-2(完全版)

問1「おもりの質量は振り子の周期に影響するか」

変数の種類 具体的に
独立変数 おもりの質量(20 g、50 g、100 g、200 g)
従属変数 周期(10往復の時間 ÷ 10)
統制変数 糸の長さ(同じ 80 cm)、振れ幅(同じ 10°)、おもりの形(すべて同じ大きさの球。質量だけが異なる素材を使う)、糸の材質(同じ綿糸)、測定場所(同じ部屋で連続して行う)

注意:おもりの質量を変えるとき、おもりの大きさや形も変わってしまうと、空気抵抗の影響が混ざる。質量だけを変えるには、同じ大きさ・同じ形で素材が異なるおもりを使うなどの工夫がいる。


問2「斜面の角度は、台車が底に着くまでの時間に影響するか」

変数の種類 具体的に
独立変数 斜面の角度(10°、20°、30°、40°)
従属変数 台車が斜面の頂上から底に着くまでの時間
統制変数 斜面の長さ(同じ 1.0 m)、台車の質量(同じ台車を使う)、台車を離す位置(毎回同じ頂上位置から静かに離す)、斜面の素材(同じ板。摩擦条件を揃える)、測定者とストップウォッチ(同一人物が同じ計器で計測)

注意:角度を変えると斜面の「高さ」も変わるが、ここでは斜面の「長さ」を統制している。高さを統制する設計も可能だが、その場合は斜面の長さが変数になる。どちらを統制するかの選択自体が実験設計の判断である。


問3「紙飛行機の翼の面積は飛距離に影響するか」

変数の種類 具体的に
独立変数 翼の面積(標準の 100%、75%、50%——翼端を均等に切って調節)
従属変数 水平飛距離(投げた地点から着地点までの距離)
統制変数 紙の種類と厚さ(同じコピー用紙)、折り方(同じ型で折る)、投げる人・投げ方・投げる高さ(同一人物が同じフォームで胸の高さから投げる)、風の条件(体育館など無風の室内で行う)、測定方法(メジャーで着地点までを測定。各条件3回投げて平均を取る)

注意:翼面積を変えると機体の重量バランスも変わるため、面積だけの影響を取り出すのは難しい。この困難を自覚しておくことが、第5章で学んだ「モデルの限界」の実践である。

6.3 公平な比較をどう作るか

三つの変数を整理しても、実験の設計としてはまだ十分ではない。 「変えるものを一つだけにする」というルールが、 実際にどう守られるかを考える必要がある。

次の二つの実験計画を比べてほしい。

計画X(悪い例)

糸の長さが周期に影響するかを調べる。 30 cm の糸に 50 g のおもりをつけて振らせた。 次に、100 cm の糸に 200 g のおもりをつけて振らせた。 100 cm のほうが周期が長かった。 したがって、糸が長いほど周期は長い。

計画Y(良い例)

糸の長さが周期に影響するかを調べる。 同じ 50 g の球形おもりを使い、振れ幅を 10° に統一した。 糸の長さだけを 30 cm、50 cm、70 cm、100 cm と変えた。 各条件で10往復の時間を3回ずつ測り、平均を取った。 糸が長いほど周期が長くなる傾向が見られた。

計画Xの問題点は何か。

糸の長さとおもりの質量を同時に変えている。 結果が変わったとしても、それが長さのせいなのか質量のせいなのか分からない。 二つの変数が「絡み合って」しまっている。

計画Yでは、おもりの質量・形・振れ幅をすべてそろえた上で、 糸の長さだけを変えている。 さらに、4段階で変えているので、 「長くなるほど周期が長くなる」という傾向が見えやすい。 3回ずつ測って平均を取ることで、 偶然のばらつきの影響も軽減している。

公平な比較とは、変えたいもの以外は結果に影響しないようにそろえることである。

ただし、ここで一つ補足が必要である。 「一度に一つだけ変える」は、入門段階の実験設計として有効な原則であるが、 実際の科学研究では複数の要因を同時に計画的に変える手法(実験計画法)も使われる。 本書では、まず一つだけ変える設計を十分に練習する。 複数要因の同時比較は、より高度な方法として別の機会に扱う。

小課題 6-3

次の実験計画を読み、 (a) 何が問題か、(b) どう修正すべきかを書け。

  1. 「斜面の角度が物体の到達時間に影響するか調べたい。角度30°で鉄球を転がし、角度60°でゴムボールを転がして、到達時間を比べた。」
  2. 「ばねの伸びが力に比例するか調べたい。10 g、20 g、30 g のおもりを順にぶら下げ、伸びを測った。ただし、おもりを変えるたびに別のばねに交換した。」
  3. 「紙飛行機の投げる角度が飛距離に影響するか調べたい。同じ紙飛行機を15°、30°、45°で投げた。ただし各角度で1回ずつしか投げなかった。」

解答例 6-3

問1 (a) 角度と物体の種類を同時に変えている。鉄球とゴムボールでは質量・形状・弾性が異なるため、到達時間の差が角度のせいなのか物体の違いのせいなのか区別できない。 (b) 同じ物体(例えば同じ鉄球)を使い、角度だけを変えて比べる。斜面の長さや表面の材質もそろえる。

問2 (a) おもりを変えるたびにばねを交換しているため、ばねの特性(ばね定数)が統制されていない。伸びの違いがおもりの質量のせいなのか、ばねの違いのせいなのか区別できない。 (b) 同じばねを使い続け、おもりの質量だけを変える。おもりをぶら下げるたびに一度外して自然長に戻すなど、ばねの状態を一定に保つ工夫も必要である。

問3 (a) 実験としての構造は正しいが、各角度で1回しか投げていないため、偶然のばらつき(投げ方のわずかな違い、風など)が結果に大きく影響しうる。 (b) 各角度で少なくとも5回以上投げ、平均を取る。室内で行い風の影響を減らすことも有効である。

6.4 どう測るかまで設計する

何を変え、何をそろえるかが決まったら、 次はどう測るかを設計する。 測定方法は実験の一部であり、 結果の信頼性に直接影響する。

振り子の周期を測る場合を考える。

方法A:1往復の時間をストップウォッチで測る。

方法B:10往復の時間をストップウォッチで測り、10で割る。

方法Aの問題は、人間の反応時間(0.1〜0.3秒程度)が 1往復の時間(1〜2秒程度)に対して大きいことである。 測定誤差が結果の数十パーセントに達しうる。

方法Bでは、10往復の合計時間を測るため、 反応時間の誤差が全体に占める割合は1/10になる。 測定の精度が大幅に改善する。

ここで重要な原則がある。

測定の精度は結論の精度を制限する。

第1章で「目視では確認できなかった」という表現を使った。 これは「差がない」ことを意味するのではなく、 「この測定方法では差を検出できなかった」ことを意味する。 より精密な測定方法を使えば、差が見える可能性がある。

測定方法を決めるときに考えるべき点を整理する。

表 6.2: 測定方法の設計チェックリスト
確認事項 問い 例(振り子)
精度 その方法で、知りたい差を検出できるか 0.1秒の差を見たいなら1往復計測では不十分
再現性 同じ条件で繰り返したら同じ結果が出るか 3回以上測って平均を取る
記録 結果をどう記録するか 数値を表にまとめる。グラフにできる形で

小課題 6-4

次の各実験について、 (a) 提案されている測定方法の問題点を一つ指摘し、 (b) より良い測定方法を提案せよ。

  1. 「ばねの伸びを調べるために、おもりをぶら下げたときのばねの長さを目分量で読み取った。」
  2. 「斜面を下る台車の速さを、底に到達した瞬間に目視で判断した。」
  3. 「紙飛行機の飛距離を、着地点まで歩幅で測った。」

解答例 6-4

問1 (a) 「目分量」では読み取り誤差が大きく、数ミリメートルの違いを検出できない。ばねの伸びが小さい場合、目分量の誤差が伸びと同程度になる可能性がある。 (b) ばねの横に定規を固定し、おもりの下端(またはばねの下端)の位置を定規の目盛りで読み取る。読み取る人の目の位置をばねと同じ高さに合わせ、視差を避ける。

問2 (a) 台車の速さを目視で判断するのは不可能に近い。速さは「距離÷時間」であり、距離と時間の両方を測る必要がある。 (b) 底の付近に一定の距離(例えば 50 cm)の区間を設け、その区間を通過する時間をストップウォッチやビデオ撮影で測定し、距離÷時間で平均速度を求める。


問3 (a) 歩幅は人によって異なり、同じ人でも一歩ごとにばらつきがある。歩幅の誤差が累積するため、距離が長くなるほど測定値の信頼性が下がる。また、歩幅を「何センチ」と正確に把握している人は少なく、単位への変換も曖昧になる。 (b) メジャー(巻き尺)を使って、投げた地点から着地点までの距離を直接測定する。着地点にはあらかじめテープなどで印をつけておく。距離が長い場合は、床に 1 m 間隔でテープを貼った目盛り線をあらかじめ設置しておくと、着地点の位置を素早く読み取れる。

6.5 予想と違う結果が出たらどう考えるか

実験計画を立て、測定を行い、結果を得た。 しかし、結果が予想と違うことがある。

振り子の実験で、 「おもりの質量が大きいほど周期が長くなるはずだ」と予想して実験したが、 質量を変えても周期がほとんど変わらなかった── この結果は「失敗」だろうか。

答えはNoである。

予想と違う結果が出たとき、考えるべきことは三つある。

統制変数がそろっていたか

まず疑うのは、自分の実験の設計である。 統制すべき変数がそろっていなかった可能性はないか。 質量を変えるとき、おもりの大きさや形も変わっていなかったか。 糸の長さは本当に同じだったか。

モデルの予測と比べる

振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{L/g}\) には、 質量 \(m\) が含まれていない。 つまり、物理のモデルは「質量は周期に影響しない」と予測している。 この実験結果は、モデルの予測と一致している。 「予想と違った」のは、実験が失敗したからではなく、 自分の直感がモデルと異なっていたからである。

代替説明を考える

もし結果がモデルの予測とも異なる場合は、 別の説明(代替仮説)を考える必要がある。 たとえば、「糸の長さを変えても周期が変わらなかった」という結果が出た場合、 糸の長さの変化が小さすぎて差が測定精度以下だったのかもしれないし、 おもりが糸の結び目で固定されずにずれていたのかもしれない。

予想と違う結果は、実験の終わりではない。 どの条件が崩れていたかを見直す出発点である。

この発想は、第5章で学んだモデルの破綻のサイン(セクション 5.4)と共通する。 予測と実測のずれは、モデルの適用範囲外に出たか、 統制が不十分だったか、測定精度が足りなかったか、 いずれかを教えてくれる。 どの場合も、次の実験をどう改善するかの手がかりになる。

小課題 6-5

次の実験結果は、いずれも予想と異なるものであった。 それぞれについて、 (a) 統制変数の問題か、モデルの限界か、測定精度の問題か、を判断し、 (b) 次に何を確認すべきかを一文で書け。

  1. 「斜面の角度を大きくしたら、物体の到達時間が短くなるはずだった。しかし、角度を 70° にしたら、むしろ 60° のときより遅くなった。」
  2. 「ばねに 100 g、200 g、300 g のおもりをぶら下げた。100 g と 200 g のときは比例的に伸びたが、300 g のときは予想よりずっと大きく伸びた。」
  3. 「同じ鉄球を同じ高さから5回落とし、落下時間を測った。5回の値が 0.63 s、0.58 s、0.71 s、0.60 s、0.64 s とばらついた。」

解答例 6-5

問1 (a) 統制変数の問題の可能性が高い。角度が非常に大きいと、物体が「滑る」から「転がる」に変わったり、斜面の端で引っかかったりする可能性がある。運動の様式が変わると、もはや同じ条件での比較とは言えない。 (b) 角度 70° のとき、物体が斜面上で滑っているのか転がっているのか、あるいは途中で浮き上がったり跳ねたりしていないかを確認する。

問2 (a) モデルの限界に達した可能性がある。理想ばねモデル(\(F = kx\))は弾性限界の範囲内でのみ有効である。300 g で弾性限界を超えた場合、比例関係が崩れる。 (b) 300 g のおもりを外したあと、ばねが元の長さに戻るかどうかを確認する。戻らなければ弾性限界を超えたことが分かる。

問3 (a) 測定精度の問題。ストップウォッチの操作には人間の反応時間(0.1〜0.3秒)が含まれるため、0.6秒程度の落下時間に対してばらつきが大きい。 (b) 落下高さを大きくして落下時間を長くするか、光電センサーなど人間の反応に依存しない測定方法を使う。

6.6 実験計画書を書く

ここまでの各節で学んだ要素を、一つの実験計画書にまとめる。 実験計画書とは、実験を始める前に書く設計図である。

計画書に含める項目は以下の通りである。

表 6.3: 実験計画書のテンプレート
項目 内容 対応する節
問い 何を調べたいか
仮説 結果の予想
独立変数 何を変えるか セクション 6.2
従属変数 何を測るか セクション 6.2
統制変数 何をそろえるか セクション 6.2
手順 具体的にどう行うか セクション 6.3
測定方法 どう測り、何回測るか セクション 6.4
予想と違った場合 何を見直すか セクション 6.5

実験計画書を書く意味は、実験の手順を忘れないようにすることだけではない。 実験の公平さを実験前に点検することにある。

計画書を書いた時点で、 「統制変数が足りない」「測定方法が粗すぎる」 「予想と違った場合の見通しがない」 といった弱点が見えてくる。 これらは実験を始めてからでは修正が難しい。

実験計画書は、実験のための準備ではなく、 実験の議論としての質を保証するための道具である。

6.7 まとめと小演習

この章で扱ったことを振り返る。

まず、結果に影響しそうな要因を網羅的に洗い出す作業を行った(セクション 6.1)。 次に、独立変数・従属変数・統制変数の三つの区別を導入し(セクション 6.2)、 公平な比較を設計する方法を学んだ(セクション 6.3)。 さらに、測定方法の設計(セクション 6.4)と、 予想と異なる結果が出たときの対処法(セクション 6.5)を整理し、 最後に実験計画書の書き方を示した(セクション 6.6)。

以上をまとめると、次のことが言える。

ヒントこの章で身につけたい力
  1. 結果に影響しそうな要因を広く列挙できる。
  2. 独立変数・従属変数・統制変数を区別し、表で整理できる。
  3. 公平な比較になっていない実験計画の問題点を指摘できる。
  4. 測定方法の精度と再現性を意識した計画を立てられる。
  5. 予想と違う結果に対して、統制・モデル・測定の観点から原因を考えられる。

第4章で「条件」、第5章で「モデルの前提」、 この章で「統制変数」を学んだ。 この三つは、異なる角度から同じものを見ている。

  • 条件は、主張が成り立つ範囲を言語で示す。
  • モデルの前提は、条件を物理的な意味で整理する。
  • 統制変数は、条件を実験の中で物理的に固定する。

第7章では、同じ現象を文章・図・グラフ・式など複数の表現で語り、 それらの整合性を確認する方法を扱う。

小演習

小演習 6-A

次の会話を読み、 (a) AとBの実験設計のどこに問題があるかを指摘し、 (b) どのように改善すればよいかを書け。

A:「ゴムの弾力を調べるために、ゴムバンドにおもりをぶら下げて伸びを測ったよ。10 g で 2 cm、20 g で 4 cm 伸びた。比例するね。」
B:「本当? 私もやったけど、10 g で 1 cm、20 g で 2.5 cm だったよ。比例してないかも。」
A:「同じ実験なのに結果が違うのはおかしいな。」

解答例 6-A

(a) 問題点: AとBが「同じ実験」と言っているが、使っているゴムバンドが同じかどうかが確認されていない。ゴムバンドの太さ、長さ、材質、新しさ(劣化の度合い)が異なれば、同じおもりでも伸びは異なる。これは統制変数の不一致である。

また、伸びの測定方法も統一されていない可能性がある。AとBが別々の定規や目盛りを使い、読み取り位置や精度が異なるかもしれない。

(b) 改善策: 同じゴムバンド(同じ製品の同じロットから切り出したもの)を使い、同じ定規で同じ読み取り方法を用いて測定する。さらに、それぞれの条件で3回以上測定し平均を取ることで、偶然のばらつきを減らす。二人の結果が一致するかどうかは、統制が揃って初めて議論できる。

小演習 6-B

次の実験計画を読み、テンプレート(表 6.3)の 各項目が揃っているかを点検せよ。 不足している項目を指摘し、補う内容を書け。

問い:水の温度は、砂糖が溶けるまでの時間に影響するか。
仮説:温度が高いほど、砂糖は速く溶けるだろう。
手順:水を 20°C、40°C、60°C に用意し、砂糖を入れてかき混ぜ、溶けるまでの時間を測る。

解答例 6-B

揃っている項目: 問い、仮説、手順(概略)。

不足している項目と補足:

  • 独立変数:水の温度(20°C、40°C、60°C)──暗黙に含まれているが、明示されていない。
  • 従属変数:砂糖が溶けるまでの時間──明示されていない。「溶ける」の定義も必要(目視で粒が見えなくなるまでか)。
  • 統制変数:水の量(同じ 200 mL)、砂糖の量と種類(同じ銘柄の角砂糖 1個)、かき混ぜ方(同じ速さ、同じ道具で)、容器の種類(同じガラスコップ)。これらが書かれていないため、公平な比較になっているか分からない。
  • 測定方法:ストップウォッチで測る。各温度で3回以上繰り返し平均を取る──これが書かれていない。
  • 予想と違った場合:温度を上げても溶ける時間が変わらなかった場合、砂糖の量が少なすぎて差が見えなかった可能性を考え、砂糖の量を増やして再実験する──この見通しが書かれていない。

章末課題:実験計画書を書く

以下の手順に従い、実験計画書(A4用紙1〜2枚)を作成せよ。

題材

次の三つの問いから一つを選ぶ。

  1. 「斜面の角度は、台車が底に到達するまでの時間に影響するか」
  2. 「ばねに加える力を2倍にすると、伸びも2倍になるか」
  3. 「紙飛行機を投げる角度は、飛距離に影響するか」

構成

表 6.3 のテンプレートに従い、以下の全項目を記入する。

  1. 問い(一文)
  2. 仮説(予想される結果とその理由。一〜二文)
  3. 独立変数(何を、どの範囲で、何段階に変えるか)
  4. 従属変数(何を測るか。単位と測定方法を明記)
  5. 統制変数(そろえるべき要因を四つ以上挙げ、それぞれどうそろえるかを書く)
  6. 手順(箇条書きで、番号をつけて記述)
  7. 測定回数と記録方法(何回繰り返すか。結果を記録する表の形を示す)
  8. 予想と違った場合の見直し(代替説明を一つ挙げ、次に何を確かめるかを書く)

評価の観点

  • A 問い・仮説・変数設定が一貫しており、独立変数と統制変数が明確か(セクション 6.2 の枠組み)
  • B 手順が公平な比較になっているか。統制変数が適切にそろえられているか(セクション 6.3 の基準)
  • C 測定方法に精度と再現性の工夫があるか(セクション 6.4 の視点)
  • D 予想と違う結果への備え(代替説明・見直し計画)が具体的か(セクション 6.5 の発想)

解答例:章末課題(模範例)

選んだ問い:「斜面の角度は、台車が底に到達するまでの時間に影響するか」

1. 問い

斜面の角度を変えたとき、台車が斜面の上端から底端に到達するまでの時間は変わるか。

2. 仮説

角度が大きいほど、斜面方向の重力成分が大きくなるため、台車の加速度が大きくなり、到達時間は短くなると予想する。

3. 独立変数

斜面の角度:15°、30°、45°、60° の4段階。

4. 従属変数

台車が斜面の上端から底端に到達するまでの時間(秒)。ストップウォッチで測定し、0.01秒単位で記録する。

5. 統制変数

統制変数 そろえ方
台車 同じ台車(同じ質量・形状)を全条件で使用
斜面の長さ 斜面の長さを 80 cm に固定(角度を変えても同じ長さを走る)
斜面の表面 同じ板(同じ材質・同じ面)を使い、表面の状態を変えない
開始方法 台車を手で支え、静かに離す(押さない)。毎回同じ位置から
測定場所 同じ教室で、連続して行う(温度・湿度の変化を最小にする)

6. 手順

  1. 斜面を 15° に設置し、上端に台車を置く。
  2. 台車を静かに離すと同時にストップウォッチを開始する。
  3. 台車が底端に到達した瞬間にストップウォッチを止める。
  4. 到達時間を記録する。
  5. 手順 2〜4 を同じ条件で5回繰り返す。
  6. 角度を 30°、45°、60° に変え、手順 2〜5 を繰り返す。

7. 測定回数と記録方法

各角度で5回測定し、平均値を求める。

角度 1回目 2回目 3回目 4回目 5回目 平均
15°
30°
45°
60°

8. 予想と違った場合の見直し

もし角度を大きくしても到達時間がほとんど変わらなかった場合、次の代替説明を考える。斜面と台車の間の摩擦が非常に大きく、角度を変えても台車がほとんど加速しなかった可能性がある。この場合、斜面の表面をより滑らかなもの(ガラス板やアクリル板など)に変えて、摩擦の影響を減らした上で再実験する。

また、角度が非常に大きい場合(60°)に台車が斜面から浮き上がったり、転倒したりする可能性がある。その場合は、台車ではなく球体を使うか、角度の上限を下げる。

振り返り

この章を終えて、次の二つの問いに答えてほしい。

  1. 何が言えるようになったか。 ──要因の列挙、三つの変数の区別、公平な比較の設計、 測定方法の工夫、予想外の結果への対処 のうち、自分がもっとも使えるようになった力はどれか。一文で書け。

  2. 何がまだ危ういか。 ──上の五つのうち、自分がまだうまくできないと感じる力はどれか。 どの場面で難しいと感じたかを一文で書け。

実験計画を書く力は、科学に限った技能ではない。 「何を変えたか」「何をそろえたか」「だから何が言えるか」── この三つの問いは、日常の議論でも因果関係を主張するたびに必要になる。 「新しい勉強法にしたら成績が上がった」と言いたいとき、 勉強法以外の条件(睡眠時間、テストの難しさ、勉強時間)が そろっていたかどうかを問う力は、この章で身につけた力そのものである。