3 グラフは何を語り、何を語らないか
右上がりのグラフは、いつも「速くなっている」ことを意味するのか。
すぐに答えようとしなくてよい。 ただ、なぜそう思ったかを一文だけメモしておいてほしい。 それがこの章の出発点になる。
グラフを見せられると、人はまず形を見る。 右上がりなら「増えている」、右下がりなら「減っている」と読む。 それ自体は間違いではない。 しかし、何が増えているのかを確認しないまま読み進めると、 重大な誤読が起きる。
たとえば、次の二つのグラフを想像してほしい。
- グラフP:横軸が時間、縦軸が位置。右上がりの直線。
- グラフQ:横軸が時間、縦軸が速度。右上がりの直線。
どちらも右上がりの直線である。 しかし、グラフPは「一定の速さで進んでいる」ことを意味し、 グラフQは「速度がだんだん大きくなっている(加速している)」ことを意味する。 同じ形なのに、意味がまったく違う。
第2章では、主張を支える証拠の書き方を学んだ。 この章では、グラフを証拠として使う方法を扱う。 グラフは強力な証拠になるが、読み方を間違えると、 間違った主張を「証拠がある」と思い込む原因にもなる。
3.1 グラフはまず軸を見る
グラフを見るとき、最初にやるべきことは線の形を追うことではない。 軸を読むことである。
具体的には、次の四つを確認する。
- 横軸は何か(時間か、位置か、温度か、……)
- 縦軸は何か(位置か、速度か、力か、……)
- 単位は何か(秒、メートル、m/s、……)
- どの範囲か(0〜10秒なのか、0〜100秒なのか)
この四つが分かって初めて、線の形に意味が生まれる。
グラフの形に意味を与えるのは、軸である。 軸を読まずに形だけ読むのは、単位を見ずに数字だけ読むのと同じである。
次のデータを使って練習する。 ある台車の運動を記録した結果が、表 3.1 に示されている。
| 時間 (s) | 位置 (m) | 速度 (m/s) |
|---|---|---|
| 0 | 0 | 2.0 |
| 1 | 2.0 | 2.0 |
| 2 | 4.0 | 2.0 |
| 3 | 6.0 | 2.0 |
| 4 | 8.0 | 2.0 |
このデータから二つのグラフが描ける。
- 位置−時間グラフ:横軸が時間、縦軸が位置。原点を通る右上がりの直線になる。
- 速度−時間グラフ:横軸が時間、縦軸が速度。高さ 2.0 m/s の水平な直線になる。
位置−時間グラフは右上がりだが、速度−時間グラフは水平である。 「右上がり=速くなっている」と読んでしまうと、位置−時間グラフを見て 「台車は加速している」と誤読する。 実際には、台車は等速で動いている。
小課題 3-1
次のグラフの説明を読み、四つの確認事項(横軸・縦軸・単位・範囲)を それぞれ書き出せ。さらに、このグラフから直接読み取れる量を一つ挙げよ。
あるばねに吊るしたおもりの質量と、ばねの伸びの関係を調べた。 横軸におもりの質量(g)、縦軸にばねの伸び(cm)をとったところ、 原点を通る右上がりの直線が得られた。 おもりの質量は 0 g から 500 g まで、ばねの伸びは 0 cm から 25 cm まで記録した。
解答例 3-1
- 横軸:おもりの質量
- 縦軸:ばねの伸び
- 単位:横軸が g(グラム)、縦軸が cm(センチメートル)
- 範囲:横軸 0〜500 g、縦軸 0〜25 cm
- 読み取れる量:グラフの傾きから「質量 1 g あたりのばねの伸び」(0.05 cm/g)が読み取れる。
3.2 位置−時間グラフを読む
位置−時間グラフ(\(x\)-\(t\) グラフ)は、物体がいつ・どこにいたかを記録したものである。 ここでは、このグラフから何が読めるかを整理する。
読み方の基本
| グラフの特徴 | 意味 |
|---|---|
| 点の高さ | その時刻での位置 |
| 直線の傾き | 速さ(傾きが大きいほど速い) |
| 右上がりの直線 | 一定の速さで正の向きに進んでいる |
| 水平な直線 | 静止している(位置が変わらない) |
| 曲線(上に凸) | 速さが徐々に小さくなっている(減速) |
ここで、よくある誤読を三つ挙げる。
- 誤読1:線が高いほど速い
- 線の高さは位置を表す。速さは傾きで読む。高い位置にいることと速く動いていることは別である。
- 誤読2:右上がり=加速している
- 右上がりの直線は等速運動を表す。加速しているのは、右上がりの曲線(下に凸)のときである。
- 誤読3:グラフの形=物体の経路
- 位置−時間グラフの「山」は、物体が山なりに動いたことを意味しない。ある時刻まで正の向きに進み、その後戻ってきたことを表す。
次のデータ(表 3.3)を見てほしい。
| 時間 (s) | 台車Aの位置 (m) | 台車Bの位置 (m) |
|---|---|---|
| 0 | 0 | 0 |
| 1 | 1.0 | 0.5 |
| 2 | 2.0 | 2.0 |
| 3 | 3.0 | 4.5 |
| 4 | 4.0 | 8.0 |
台車Aは等間隔で位置が増えている(直線)。台車Bは増え方が大きくなっている(曲線、下に凸)。 位置−時間グラフ上では、台車Aは右上がりの直線、台車Bは右上がりの曲線になる。
台車Aは等速運動、台車Bは加速運動である。 どちらも「右上がり」だが、直線か曲線かで意味が異なる。
小課題 3-2
表 3.3 のデータについて、次の各主張が正しいか誤りかを判定し、 誤りの場合はどこが間違っているかを一文で書け。
- 「台車Bは台車Aより常に前方にいる。」
- 「台車Bは加速している。」
- 「台車Aは 2 秒の時点で止まっている。」
- 「4 秒の時点で、台車Bは台車Aの2倍の速さで動いている。」
解答例 3-2
- 問1:誤り。0〜1秒の区間では台車Aの位置(1.0 m)が台車B(0.5 m)より前方にある。「常に前方」は正しくない。
- 問2:正しい。位置の増え方が時間とともに大きくなっており(0.5, 1.5, 2.5, 3.5 m/s)、速さが増加していることを示している。
- 問3:誤り。2秒の時点で台車Aの位置は2.0 mであるが、「位置がある」ことと「止まっている」ことは別である。台車Aは前後の時間でも等間隔で位置が増えており、等速で動いている。
- 問4:正しいかどうか判断するにはデータの読み取りが必要。3〜4秒の区間で、台車Aの速度は 1.0 m/s(等速)、台車Bの平均速度は 3.5 m/s である。3.5 / 1.0 = 3.5 倍であり、「2倍」ではない。よって誤りである。
3.3 速度−時間グラフを読む
速度−時間グラフ(\(v\)-\(t\) グラフ)は、物体の速度が時間とともにどう変わるかを記録したものである。 位置−時間グラフとは読み方がまったく異なる。
読み方の基本
| グラフの特徴 | 意味 |
|---|---|
| 点の高さ | その時刻での速度 |
| 水平な直線 | 等速運動(速度が変わらない) |
| 右上がりの直線 | 一定の割合で加速している |
| 速度が 0 | その瞬間、物体は静止している |
| 速度が負 | 逆向きに動いている |
| 直線の傾き | 加速度(速度の変化率) |
よくある誤読を二つ挙げる。
- 誤読1:線が高い=位置が高い
- 速度−時間グラフの縦軸は速度であり、位置ではない。線が高いのは「速い」のであって「遠い」のではない。
- 誤読2:速度が 0 に近い=止まりそう
- たしかに速度が 0 のとき物体は静止している。しかし、速度が 0 を通過して負になる場合は、一瞬止まった後に逆向きに動き出すことを意味する。「止まりそう」ではなく「向きが変わる」のかもしれない。
表 3.1 の台車のデータを速度−時間グラフで表すと、 高さ 2.0 m/s の水平な直線になる。 一方、表 3.3 の台車Bの速度を計算すると次のようになる。
| 時間区間 (s) | 台車Bの平均速度 (m/s) |
|---|---|
| 0〜1 | 0.5 |
| 1〜2 | 1.5 |
| 2〜3 | 2.5 |
| 3〜4 | 3.5 |
速度−時間グラフ上では、台車Bは右上がりの直線になる。 位置−時間グラフでは曲線だったものが、速度−時間グラフでは直線になる。 同じ運動でも、何を縦軸にするかでグラフの形が変わる。
同じ運動でも、位置−時間グラフと速度−時間グラフでは形が異なる。 グラフの形だけを見て判断するのではなく、 縦軸が何を表しているかを必ず確認すること。
小課題 3-3
次の速度−時間データをもとに、各問に答えよ。
| 時間 (s) | 速度 (m/s) |
|---|---|
| 0 | 10.0 |
| 1 | 8.0 |
| 2 | 6.0 |
| 3 | 4.0 |
| 4 | 2.0 |
| 5 | 0 |
- このグラフはどのような形になるか。一文で書け。
- 物体は加速しているか、減速しているか。根拠を一文で書け。
- 「グラフが右下がりだから、物体は後ろに戻っている」という主張は正しいか。正しくない場合、何を混同しているか。
解答例 3-3
- 速度−時間グラフ上で、(0, 10.0) から (5, 0) への右下がりの直線になる。
- 減速している。速度が毎秒 2.0 m/s ずつ小さくなっており、物体は徐々に遅くなっている。
- 正しくない。速度−時間グラフが右下がりであることは「速度が減っている(減速)」を意味する。物体が後ろに戻るのは速度が負になった場合であり、この区間では速度は常に正(0以上)なので、物体は正の向きに進み続けている。位置−時間グラフの右下がりと速度−時間グラフの右下がりを混同している。
3.4 グラフのどの特徴が、どの主張を支えるか
ここまでで、位置−時間グラフと速度−時間グラフの読み方を確認した。 次に、グラフの読みを議論の証拠として使う練習をする。
第2章で学んだCERを思い出してほしい。 証拠(E)は「具体的な事実やデータ」であった。 グラフから証拠を取り出すとは、 どのグラフの、どの区間の、どの特徴を根拠にするかを言葉にすることである。
次の型を使って練習する。
証拠文の型:「[グラフ名]の[区間]において、[特徴]が見られる。 これは[主張]を支持する。」
たとえば、表 3.1 の台車について、 「台車は等速運動をしている」という主張を支える証拠文は次のように書ける。
位置−時間グラフの 0〜4秒の区間において、 データ点はほぼ一直線上に並び、傾きは一定(2.0 m/s)である。 これは台車が等速で運動していることを支持する。
この文には三つの要素が入っている。
- どのグラフか(位置−時間グラフ)
- どの区間・どの特徴か(0〜4秒、直線、傾き一定)
- 何を支持するか(等速運動)
「グラフを見れば明らかだ」は証拠文ではない。 明らかに見えることを言葉にするのが、議論の仕事である。
グラフを証拠として使うとは、 「どのグラフの、どの区間の、どの特徴を見て、何を言うのか」を 言葉にすることである。
小課題 3-4
表 3.3 のデータをもとに、次の各主張について、 上の型(グラフ名・区間・特徴・支持する内容)に従って証拠文を書け。
- 「台車Bは加速している。」
- 「2秒の時点では台車Aと台車Bは同じ位置にいる。」
解答例 3-4
問1の証拠文: 台車Bの位置−時間グラフの 0〜4秒の区間において、 各時間間隔での位置の増加量は 0.5, 1.5, 2.5, 3.5 m と次第に大きくなっている。 傾き(=速さ)が時間とともに増加していることから、 台車Bが加速していることを支持する。
問2の証拠文: 位置−時間グラフの 2秒の時点において、 台車Aの位置は 2.0 m、台車Bの位置も 2.0 m であり、 両者の値が一致している。 これは 2秒の時点で両者が同じ位置にいることを支持する。
3.5 グラフから言えること/言えないこと
グラフの読み方と証拠文の書き方を学んだ。 ここで、もう一つ重要なことを扱う。 グラフから言えないことを、言わない力である。
第1章で「観測」「解釈」「未確定」の三分類を導入した。 グラフについても同じ発想が使える。 ある主張が手元のグラフによって支持できるのか、 支持できないのか、 あるいは情報不足で判断できないのかを区別する。
表 3.3 のデータについて、次の五つの主張を分類してみよう。
| 主張 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| ① 台車Bは 0〜4秒で加速している | 支持できる | 各区間の速度が増加しているため |
| ② 台車Aは 0〜4秒で等速である | 支持できる | 位置の増加量が毎秒 1.0 m で一定のため |
| ③ 台車Bは 10秒後も加速し続ける | 判断できない | データは 4秒までしかなく、その先は不明 |
| ④ 台車Aは台車Bより軽い | 判断できない | 質量のデータがグラフに含まれていない |
| ⑤ 台車Bは台車Aより常に速い | 支持できない | 0〜1秒の区間では台車A(1.0 m/s)の方が台車B(0.5 m/s)より速い |
グラフは多くを語るが、すべてを語るわけではない。 読めることを丁寧に読み、読めないことを言いすぎないことが大切である。
「判断できない」と答えることは、弱さではない。 第1章で学んだ通り、「まだ言えない」を残すことが議論を強くする。 グラフから読み取れない情報について断定してしまうことは、 証拠のない主張をしていることと同じである。
小課題 3-5
表 3.3 のデータについて、次の各主張を 「支持できる」「支持できない」「判断できない」のいずれかに分類し、 理由を一文ずつ書け。
- 「台車Bに一定の力がはたらいている。」
- 「3秒の時点で、台車Bは台車Aより速い。」
- 「台車Aには力がはたらいていない。」
- 「台車Bは 5秒後に台車Aの3倍以上の距離を進んでいる。」
解答例 3-5
- 問1:判断できない。速度が一定の割合で増加していることから、加速度が一定であることは読み取れる。しかし、\(F = ma\) を使って力を判断するには質量のデータが必要であり、グラフには含まれていない。ただし、加速度一定から「合力が一定」であることは言える(質量が変わらない限り)。
- 問2:支持できる。2〜3秒の区間で台車Bの平均速度は 2.5 m/s、台車Aの速度は 1.0 m/s であり、台車Bの方が速い。
- 問3:判断できない。台車Aが等速運動していることから「合力がゼロ」とは言えるが、「力がはたらいていない」とは限らない。摩擦力と他の力がつり合っている可能性がある。
- 問4:判断できない。データは 4秒までしかなく、5秒後の位置は記録されていない。4秒の時点では台車Bの位置(8.0 m)は台車Aの位置(4.0 m)のちょうど 2倍であり、3倍以上ではない。仮に同じ運動が続くとすれば、5秒後に台車Aは 5.0 m、台車Bは 12.5 m(\(0.5 \times 5^2\))となり 2.5倍になるが、4秒以降のデータがないため断定できない。
3.6 誤解を招くグラフと説明文を直す
ここまで、グラフを正しく読む練習をしてきた。 この節では視点を変えて、誤解を招くグラフや説明文を見抜き、修正する練習をする。
グラフが誤解を招く原因にはいくつかのパターンがある。
原因1:軸の切断
縦軸が 0 から始まっていないグラフは、わずかな差を大きく見せてしまう。
たとえば、二つの実験での落下時間が 1.20秒と 1.25秒だったとする。 縦軸を 0〜2秒の範囲で描けば、差はほとんど見えない。 しかし、縦軸を 1.15〜1.30秒の範囲で描くと、差が大きく見える。
データ自体は同じでも、グラフの見せ方で印象が変わる。 軸が 0 から始まっていない場合は、差の絶対的な大きさに注意する必要がある。
原因2:単位の不在
軸に単位が書かれていないグラフは、読み手がどの量を見ているのか判断できない。 「時間と距離の関係」と書かれていても、 時間が秒なのか分なのか、距離がメートルなのかキロメートルなのかで、 傾き(速さ)の解釈がまったく変わる。
原因3:見出しの言いすぎ
グラフに付けられた見出しや説明文が、 グラフから読み取れる以上のことを述べている場合がある。
たとえば、ある実験で温度と抵抗値の関係を測定したグラフに 「温度が抵抗を決める」という見出しが付いていたとする。 しかし、このグラフが示すのは「温度と抵抗値に相関がある」ことであり、 「温度が原因で抵抗が決まる」という因果関係は、 相関だけからは言えない。
原因4:グラフ種類の不適切な選択
離散的なカテゴリ(鉄、銅、アルミなど)のデータを折れ線グラフで結ぶと、 あたかもカテゴリ間に連続的な変化があるかのように見えてしまう。 このような場合は棒グラフが適切である。
小課題 3-6
次の説明文は、あるグラフに付けられたものである。 それぞれについて、(a) 何が問題か、(b) どう修正すべきかを書け。
見出し:「音楽を聴くと集中力が上がることを示すグラフ」
内容:被験者10名の、音楽あり/なしでのテスト正答率を比較した棒グラフ。音楽ありの平均正答率が2%高い。見出し:「落下時間の変化」
内容:縦軸に落下時間、横軸に「実験回数」をとった折れ線グラフ。単位の記載なし。見出し:「物体は重いほど速く落ちる」
内容:質量の異なる5種類の球(同じ形・同じ大きさ)を同じ高さから落とし、 落下時間を測定したグラフ。5点とも落下時間はほぼ同じ値を示している。
解答例 3-6
問1: (a) 見出しが因果関係(「聴くと上がる」)を主張しているが、このグラフが示すのは音楽あり群となし群の正答率の差(2%)だけである。差が小さく、被験者数も10名と少ないため、ばらつきの範囲内かもしれない。 (b) 見出しを「音楽あり群となし群のテスト正答率の比較」に修正し、差の大きさが統計的に意味のあるものかどうかを別途検討する旨を加える。
問2: (a) 二つの問題がある。第一に、縦軸・横軸ともに単位が記載されていない。落下時間の単位(秒か、ミリ秒か)が不明であり、グラフの数値を正しく解釈できない。第二に、横軸が「実験回数」であるため、データ点の間に連続的な物理量の変化はなく、折れ線で結ぶことは不適切である。実験回数はカテゴリ変数に近い。 (b) 縦軸に単位(例:s)を明記し、横軸のラベルも「実験回数(回目)」のように具体化する。グラフの種類は、実験ごとの値を個別に示す棒グラフまたは散布図に変更するのが望ましい。見出しも「各実験回での落下時間の測定値」のように、データの内容を正確に反映するものにする。
問3: (a) 見出しが「重いほど速く落ちる」と主張しているが、データはほぼ同じ落下時間を示しており、見出しとデータが矛盾している。 (b) 見出しを「同じ形・同じ大きさの球における質量と落下時間の関係」に修正し、データから読み取れること(質量によらず落下時間がほぼ一定)を正確に記述する。
3.7 まとめと小演習
この章で扱ったことを振り返る。
まず、グラフを読むときは軸を最初に確認することを学んだ(セクション 3.1)。 次に、位置−時間グラフ(セクション 3.2)と 速度−時間グラフ(セクション 3.3)の読み方の違いを整理した。 さらに、グラフの特徴を証拠文として言語化する練習(セクション 3.4)、 グラフから言えること/言えないことの三分類(セクション 3.5)、 そして誤解を招くグラフの修正(セクション 3.6)を行った。
- グラフの軸・単位・範囲を最初に確認できる。
- 位置−時間グラフと速度−時間グラフの読み方を区別できる。
- グラフのどの特徴が、どの主張を支えるかを言語化できる。
- グラフから「言えること」「言えないこと」「判断できないこと」を区別できる。
- 誤解を招くグラフや説明文の問題点を指摘し、修正案を書ける。
第2章ではCER(主張・証拠・理由づけ)を言葉で扱った。 この章で学んだのは、グラフを証拠として議論に組み込む方法である。 第4章では、「断言」を「条件つきの主張」へ書き換える練習に進む。 ここまでの三章で身につけた「分ける」「つなぐ」「グラフで裏づける」力が、 その基盤になる。
小演習
小演習 3-A
次のデータは、ある物体を斜面上で静かに離した実験の記録である。
| 時間 (s) | 位置 (m) |
|---|---|
| 0 | 0 |
| 1 | 0.5 |
| 2 | 2.0 |
| 3 | 4.5 |
| 4 | 8.0 |
このデータについて、次の主張を「支持できる」「支持できない」「判断できない」に 分類し、理由を一文ずつ書け。
- 「物体は加速している。」
- 「物体は等速で動いている。」
- 「物体の質量は 500 g である。」
- 「物体の加速度は一定である。」
解答例 3-A
- 問1:支持できる。各区間での位置の増加量は 0.5, 1.5, 2.5, 3.5 m であり、速さが増加している。
- 問2:支持できない。位置の増加量が区間ごとに異なる(一定ではない)ため、等速ではない。
- 問3:判断できない。位置と時間のデータだけでは質量は分からない。
- 問4:支持できる。各区間の平均速度は 0.5, 1.5, 2.5, 3.5 m/s であり、速度の増加量は毎秒 1.0 m/s で一定である。これは加速度が一定(1.0 m/s²)であることを示唆する。
小演習 3-B
次の説明文を読み、(a) どこが「言いすぎ」か、 (b) データから言えることだけを使って書き直せ。
「二つの台車AとBの位置−時間グラフを比べた。 台車Bの線は台車Aの線より傾きが大きい。 したがって、台車Bのほうが高性能であり、 台車Bのエンジンは台車Aのエンジンより優れている。」
解答例 3-B
(a) 言いすぎの箇所: 「高性能」「エンジンが優れている」は、位置−時間グラフからは読み取れない。グラフの傾きから分かるのは速さの大小だけであり、性能やエンジンの良し悪しは別の情報(燃費、耐久性、制御精度など)が必要である。また、台車がエンジンで動いているかどうかもグラフからは分からない。
(b) 書き直し: 「二つの台車AとBの位置−時間グラフを比べた。台車Bの線は台車Aの線より傾きが大きい。したがって、この実験条件では台車Bは台車Aより速い速度で移動していた。速度の違いが何に起因するかは、このグラフだけでは判断できない。」
章末課題:グラフを根拠に主張を査定する
以下の手順に従い、判定表と説明文(合計300字程度)を作成せよ。
題材
次のデータは、同じ台車を異なる傾きの斜面(斜面X:緩やか、斜面Y:急)で 静かに離した実験の記録である。
| 時間 (s) | 斜面Xでの位置 (m) | 斜面Yでの位置 (m) |
|---|---|---|
| 0 | 0 | 0 |
| 1 | 0.3 | 0.8 |
| 2 | 1.2 | 3.2 |
| 3 | 2.7 | 7.2 |
| 4 | 4.8 | 12.8 |
作業1:判定表
次の五つの主張を「支持できる」「支持できない」「判断できない」に分類し、 理由を一文ずつ書け。
- 「斜面Xでは台車は等速で動いている。」
- 「斜面Yのほうが斜面Xより加速が大きい。」
- 「斜面Yの台車は 4秒以降も同じ加速度で加速し続ける。」
- 「斜面の角度が大きいほど、加速度が大きい。」
- 「斜面Xの台車の質量は斜面Yの台車の質量と同じである。」
作業2:説明文
主張2と主張4について、それぞれ判定の根拠を 150字程度で書け。 根拠には、データの具体的な数値を含めること。
評価の観点
- A グラフ(データ表)の読み取りが正確か
- B 「どの区間の、どの特徴を根拠にしたか」が言語化されているか
- C 支持できる/支持できない/判断できないの区別が適切か
- D 見出しや説明文の問題を具体的に指摘・修正できるか
解答例:章末課題(模範例)
判定表
| 主張 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| ① 斜面Xは等速 | 支持できない | 位置の増加量(0.3, 0.9, 1.5, 2.1 m)が一定ではなく、増加している |
| ② 斜面Yの方が加速が大きい | 支持できる | 下記の説明文を参照 |
| ③ 4秒以降も同じ加速度 | 判断できない | データは4秒までしかなく、その先の運動は不明 |
| ④ 角度が大きいほど加速大 | 判断できない | 下記の説明文を参照 |
| ⑤ 質量が同じ | 判断できない | 位置と時間のデータだけでは質量は分からない |
説明文:主張2について
斜面Xの各区間の平均速度は 0.3, 0.9, 1.5, 2.1 m/s であり、 速度の増加量は毎秒 0.6 m/s(加速度 0.6 m/s²)である。 斜面Yの各区間の平均速度は 0.8, 2.4, 4.0, 5.6 m/s であり、 速度の増加量は毎秒 1.6 m/s(加速度 1.6 m/s²)である。 よって斜面Yの加速度は斜面Xの約2.7倍であり、この主張は支持できる。
説明文:主張4について
「角度が大きいほど加速度が大きい」という一般的な関係を主張するには、 三つ以上の異なる角度で比較する必要がある。 手元のデータは二つの斜面だけであり、 この二つでは確かに急な斜面のほうが加速度が大きい。 しかし、二点の比較だけでは「ほど」という一般的な傾向は言えない。 したがって、判断するには追加データが必要である。
振り返り
この章を終えて、次の二つの問いに答えてほしい。
何が言えるようになったか。 ──グラフの軸を読む力、位置−時間と速度−時間の区別、 グラフから証拠文を書く力、言えないことを区別する力、 誤解を招くグラフを直す力のうち、 自分がもっとも使えるようになった力はどれか。一文で書け。
何がまだ危ういか。 ──上の五つのうち、自分がまだうまくできないと感じる力はどれか。 どの場面で難しいと感じたかを一文で書け。