「注意資源は有限である」 誰に会い,誰の声を重く受け取るか.創造性を動かすのは,接触の多さではなく,その配分です.
新しい事業をつくるチームは,顧客,取引先,専門家,経営層,他部署など,チームの外にいる多様な相手と接触します.本論文が問うのは,接触先が多様であるほど創造的成果は高まるのか,そして社外,社内上位層,社内同等・下位層の影響は同じなのか,ということです.
ここでいう「外部」は,会社の外ではなく,チームの外という意味です.上司や他部署のように社内の相手でも,チームから見れば外部ネットワークに含まれます.
身近な会議でいえば,同じ部門の声だけを聞くより,顧客や技術者,経営層の異なる見方に触れるほど,考えられる選択肢は増えます.論文の「外部ネットワーク多様性」は,チームが接触した相手の種類別シェアがどれほど分散しているかを示す指標です.
さらに,利用者,取引先,経営層などの立場に身を置いて,その人には世界がどう見えるかを考える.この視点の広がりを,論文は「多元的視点取得」と呼び,さまざまなステークホルダーの立場から世界を想像する程度と定義します.
分析対象は,従業員300人以上の企業で事業創造プロジェクトに参加した管理職561人です.接触相手ごとの時間と影響力のシェアを質問票で尋ね,ネットワークの多様性,多元的視点取得,創造的成果の関係を共分散構造分析で調べ,接触先の区分ごとに二次曲線も当てはめています.
論文は,この効果を二つの段階で示します.まずネットワーク全体で見ると,多様な相手と接触するほど創造的成果が高まりました.その効き方は二通りで,接触がじかに成果を押し上げる道(直接効果)と,接触がチームの多元的視点取得を促してそれが成果を高める道(間接効果)が,ともに働いていました.
接触先を三つに分けると,どちらの道が効くかは相手によって変わります.社外は全体と同じで,二つの道がともに効いていました.社内上位層(チームのリーダーより職位が上の人たち)は,その影響力が増えるほど成果をじかに下げるだけで(負の直接効果),視点を広げて成果を高める道は働かず,社内同等・下位層はどちらの道も統計的にはっきりしませんでした.
違いは,増やしたときの向きに現れます.
特に興味深いのは,社外も社内上位層も「増やすほど成果が上がり,あるシェアを超えると下がる」という同じ型でありながら,折り返し点がまるで違うことです.社外は,影響力シェアが75%付近に届くまでは,増やすほど創造的成果が上がり続けます.社内上位層は逆に,シェアがまだ小さいうちから成果が下がり始め,ほとんどの範囲で「増やすほど下がる」側にあると報告されました.
その違いは,接触の目的と重なります.質問票では,社外への接触は市場,業界,技術などの情報を得る目的が中心で,社内への接触は方針,戦略,業務との整合を取る目的が中心でした.接触先の種類を数えると,視点を開く働きかけと,既存の論理へ合わせる働きかけが同じ箱に入ってしまいます.
ここで組み替えられるのは,ネットワーク多様性という指標の読み方です.同じ多様性でも,情報探索と社内整合では,創造的成果へ至る経路が異なり得ると読めます.
もちろん,社内との接触を減らせばよい,という結論ではありません.論文は,社内の理解,戦略や業務プロセスとの整合,他部署との連携が,社外から得た情報,スキル,視点を生かす基盤になり得ると論じます.外的統合と内的統合は,二者択一ではなく,時間のなかで配分すべき補完関係です.
分析の射程にも留保があります.対象は,一定規模以上の企業における事業創造プロジェクトです.論文自身は,先行研究との差に調査対象と測定法の違いが関わると述べています.
同じ相手への接触が複数の目的を兼ねるため,今回の接触先の区分が先行研究の分類とそのまま重なるわけではないことも,論文は明記しています.結果をあらゆるチームへそのまま広げず,分類と対象を示して解釈する必要があります.探索的な結果を万能な処方箋にせず,それでも「社内」と「社外」を分けても見えない差を示した点に,本論文の慎重さがあります.
上位層の関与を否定するのではなく,資源獲得や整合に必要な統合と,創造のための認知的な広がりをどう両立させるかへ問いを進めています.
外との接触は,視点を開く.内との接触は,実行を支える.創造は,広がりと統合の配分から動き出す.
読後メモ
勉強になったのは,創造的に組織を動かすには,という問いでした.そこから私の関心は,やはりAIへ流れていきます.人の集まりではなく,AIでチームを組むとしたら——そのとき何が起きるのか,知りたくなりました.