一文紹介

新しい漫画作品を始めることと、既存作品を続けることでは、集まる注目にどのような違いがあるのか。日本の漫画単行本4,465冊を用いた観察研究では、新作の第1巻と既存作品の第2巻以降を区別し、作品のWikipedia閲覧数を調べた。その結果、続巻の割合が高い漫画家の作品ほど、平均閲覧数が大きく、日々の閲覧数のばらつきも大きい傾向が示された。

この論文から学ぶ

この研究は、新しい漫画作品の第1巻を「探索的」、既存作品の第2巻以降を「深化的」とみなす。漫画家が過去12か月に刊行した単行本のうち、続巻が占める割合を「個人の相対的深化」として測るため、探索と深化は別々の能力ではなく、一つの連続軸の両側として扱われる。

作品が集めた注目には、単行本刊行後12か月の作品Wikipediaページについて、1日あたり閲覧数の平均と、日々の閲覧数が平均の周りでどれほど変動したかを表す標準偏差が用いられた。単行本レーベルごとの違いなどを考慮しながら、組織上層ではなく、実際に制作する漫画家個人の刊行履歴へ分析単位を降ろした点も、この研究の工夫である。

分析では、続巻の割合が高いほど平均閲覧数が大きく、第一の仮説は支持された。ところが、続巻の割合が高いほど閲覧数の標準偏差も大きかった。深化は経験や既存の能力を利用するため、成果のばらつきを抑えるはずだという第二の仮説は、ここで外れた。

著者はこの不一致を失敗として閉じず、成果分布のどこで関係が強いのかを追加分析している。その結果を受け、ばらつきの拡大は、閲覧数が特に大きい分布の右端と関係する可能性が考察された。深化が一律に成果を安定させるのではなく、ときに突出した注目と結びつくかもしれない、という新しい問いが仮説の外れた場所から立ち上がる。

論文自身が挙げる一つの説明は、クリエイティブ産業における「馴染み」の働きである。読者は常に過去作とまったく異なるものだけを求めるわけではなく、すでに知る作品世界に戻ることにも価値を見いだす。既存のキャラクター、物語、アイディアを引き継ぐ続巻は、その需要を受け止めうる。同じ作品を継続することは、必ずしも同じことを繰り返すことではない。

もっとも、この結果だけから、深化が突出した成功を生んだとは言えない。第2巻以降まで存続した作品がすでに選ばれた存在である可能性や、既存読者、ブランド、映像化などの影響も残る。Wikipedia閲覧数は売上や作品の革新性そのものではなく、社会的注目の一面である。したがって、この研究が示すのは成功法則ではなく、漫画という文脈で観察された関係である。

探索は地平を広げ、深化は井戸を深くする、と表現できる。ただし本研究で両者は、過去12か月の刊行構成という一つの軸で測られている。重要なのはどちらを称揚するかではない。仮説が外れた地点から、どのような継続が単なる反復を越え、分布の右端へ届くのかという問いが始まったことである。

私に残ったこと

漫画の第2巻以降を「深化」と捉える考え方が新鮮でした。