機械学習を活用した磁性材料の設計に関する研究論文が、Journal of Magnetism and Magnetic Materials に掲載されました。
論文情報:
タイトル: Design and characterization of LaCo₁−xYxO₃ by machine learning 著者: Toa Asakura, Asuna Hagiya, Takashi Kataoka, Keiji Komatsu, Keisuke Sato 掲載誌: Journal of Magnetism and Magnetic Materials, Volume 635 (2025), 173593 DOI: https://doi.org/10.1016/j.jmmm.2025.173593 研究の背景 LaCoO₃は、温度変化によってコバルトイオンのスピン状態が変化する「スピンクロスオーバー現象」を示す代表的な材料です。この現象を元素置換によって制御することは重要な課題ですが、従来の実験的手法だけでは膨大な組成空間を探索することは困難でした。
研究内容 本研究では、ガウス過程回帰(GPR)という機械学習手法を用いて、LaCoO₃のB サイトへの元素置換が磁気励起エネルギーに与える影響を予測しました。従来、B サイト置換には遷移金属元素(Al、Ga、Rh、Irなど)が主に検討されてきましたが、機械学習による系統的なスクリーニングの結果、希土類元素であるイットリウム(Y)が有望な候補として浮上しました。
実際に LaCo₁−xYxO₃(x = 0, 0.02, 0.05, 0.07)試料を合成し、結晶構造解析、磁化測定、XPS 測定を行った結果、以下のことが明らかになりました:
Y置換により、格子定数のc/a比が2.406から2.417へと系統的に増加し、異方的な格子歪みが生じる この格子歪みにより結晶場が変化し、磁気励起エネルギーが低下する傾向が確認された 機械学習モデルの特徴量重要度解析により、イオン半径が磁気励起エネルギー予測において最も重要な因子であることが定量的に示された 機械学習と実験の融合 本研究の特徴は、機械学習による予測を実験によって検証した点にあります。機械学習は直感的には選ばれにくい希土類元素Yを候補として提示し、実験がその予測の妥当性を裏付けました。このような「データ駆動型の材料設計」と「物理的理解に基づいた検証」を組み合わせたアプローチは、今後の材料開発において重要な方法論になると考えられます。
論文は以下のリンクからアクセスできます(オープンアクセス): https://doi.org/10.1016/j.jmmm.2025.173593